押入れ

□夏の花
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――向日葵が、よかったな――

自分で着付けた浴衣は浅葱色に白の格子地の。
青に赤紫に咲き乱れる、大輪の朝顔の花模様。


うん、これもカワイイって思ったよ。
でも、でも・・・やっぱり・・・


想うのは、お日様色の髪の人のこと。


やっぱり向日葵が、よかったな・・・
だって向日葵はずっとずっとお日様を見ていられるんだよ?



  <夏の花> 


「織姫、支度終わったの?」
たつきちゃんの声に我に返って振り向いて。
「う、うん・・・」
「へぇー上手に拵えたね浴衣?伊達に手芸部じゃないってことだね?」
「そ、そうかな・・・?」
「どした?なんか浮かない顔して?折角のお祭りなのに??」
「たつきちゃん・・・あのね、やっぱりね、向日葵がよかったなーって思って・・・」
「はぁ?ひまわり??・・・あんたねぇ、浴衣で向日葵ってどんな柄よ??」
「・・・だって・・・あったんだもん・・・」


そうそれは、浴衣用生地のセールに行った時。
あったんだもん、可愛い向日葵柄。
黄色くて、はっきりしてて、元気よさげなその様子がとっても気に入ったんだけど。


「あんたね〜、自分で作るにしたって贅沢出来ないからセール品生地で我慢!って言ってたじゃない?でもセール品にしちゃそれ、とっても可愛いよ?」

そうだよね。
その向日葵柄はセール品じゃなかったから、あたしにはどうしても予算オーバーで。
心を残しながらも、この朝顔柄を選んできて、縫い上げたんだから。

「ほらっ元気だして?それとっても織姫に似合ってるよ?」
「うん・・・」

そうかもしれない。
陽に当たると萎んでしまう朝顔こそ、今のあたしにそっくりかも・・・
あのオレンジ色の前では胸がどきどきして、緊張して、ヘンなことしちゃいそうなあたしに。


「大丈夫!これなら一護の奴だって、どっきりするって!!」
「!!!そっそんなことないよっ!だって朝顔はくってりしちゃうんだもん!!!」
「くってり???」
「くってりには、あーあ全くしょうがないなー、って言うくらいしかないんだもん!!」



ああごめんね朝顔さん。
でもでも、あたしは出来るなら。
お日様といつもお話してるみたいな、向日葵になりたかったの。

――黒崎くんと 楽しくお話できるあたしに――



「・・・あんたねぇ、浴衣の柄とあんたは一緒じゃないっての!ほら、これ髪につけて!もう出かけるよ!?花火大会の前に夜店回りしたい、って言ったの、あんたなんだからね??」


たつきちゃんの差し出してくれたのは、青い薄い端切れで拵えた大きなふわふわっとしたお花の髪飾り。
そうだった、これを一生懸命結い上げた髪のお団子の横につけるんだった・・・

クラスのお友達と一緒に出かけることになった花火大会。
黒崎くんも来る、って聞いてうれしくてうれしくて。
浴衣はもう直しようないから、せめて何かと思って作った髪飾り。
・・・うん、ほんのちょっとでも、可愛くみえたらいいなぁって・・・

神様。それさえもくってり朝顔には過ぎた願い、ですか?
ううん、それでも、なんとか絶対。
朝日が昇ってから暫くは綺麗に笑っていられますように・・・!


「たつきちゃん、どうかな?」
髪飾りつけて、もう一度浴衣の帯と襟とをチェックして。
「OKOK!じゃあ行こうか?一護もお待ちかねだよきっと!?」
「・・・/////」
恥ずかしくって思わず下向いたら、そこには赤紫の大きな朝顔が笑ってたの。


そうだよね、朝顔だって頑張っていいんだよね?
うん、今はまだ朝顔かもしれないけれど。
気持ちだけはお日様をまっすぐ見つめてゆく向日葵みたいに。


今日は皆で花火大会見物。
黒崎くんも一緒の花火大会。
わくわくどきどき準備したんだから、きっときっと大丈夫。
きっときっと、楽しい日になるよね?たつきちゃん?


         end
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