応接間

□ここに、ずっと
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「井上」

桜舞う空の下、薄桃色に染まる世界の中に。
ペンチに腰掛け、散りゆく花を見つめる胡桃色の髪。

「・・・黒崎くん」

少し曖昧な微笑み。夢から醒めたばかりのようなその瞳に捕らえられるだけで高鳴る胸。

「悪ぃ、待ったか?」
「う、ううん?」
「・・・嘘つけ」

その服に髪に纏わりつく小さな花びら。
ひとつつまんだ軽やかな指先。

「・・・桜を見ていられたから、いいのです」
「そっか」



黙り込んだ耳に聞こえるは、薄桜色の青い水に落つ際の音。
見透す先はただ桜の光、桜の闇。



「あ・・・ご、ごめんね!?つ、つい桜に見とれちゃって!??」
いきなり立ち上がって慌て始める華奢な身体。細い足。
「お、おう?」
「じゃ、じゃあ、もう行きましょうか??」


桜、さくら。
風に散り、空に地に消えゆく。

「・・・そう、するか・・・?」

言葉には出来ずじまいな気持ちのように。



「・・・頭がフラワーアレンジメントみたい」
「あ?」
楽しそうに真ん丸く見開かれた目。いたずらにキラキラと。
「オレンジにピンクで、すっごく明るくて綺麗だね!お部屋に飾ったら楽しそう!!」
「・・・それ、あんまり嬉しくないっつーの・・・」
急にきゅっと引き結ばれた口。しょんぼり落ちる薄い肩。
「う・・・ご、ごめんなさい・・・」

しまった、と声をかけようとするとびゅん!と音がしそうな勢いでこっちを向いた。
「黒崎くん!頭の花びら取ってあげるね!!」
こぼれちまいそうに真剣な目、力が入りまくった口元。
「そんなじゃ出掛けられないもんね!?だからね??」

あ〜まったくこいつは。何必死こいて手を伸ばしてるんだか。
髪にふわりと触れてくる、あの華奢な指。
満開の桜、薄桃色の光に包まれて。
可愛くて愛おしくて、頭は麻痺寸前。

「うー、上手く取れないよぉ・・・」
背伸びしかかった踵。近付く吐息。


そのまま両手で捕まえて、一気に距離を縮める。


掠めるように奪った唇。すっぽりと腕の中に納まる身体。
吃驚して固まったそれを安心させるように、今度は散り落つ桜よりも優しく口付ける。

幾度も、幾度も繰り返し。
言えない言葉の代わりとなるまで。
その優しい身体が俺に委ねられるまで。


ふにゃりと俺の胸に預けられた重みをぎゅっと抱きしめた。
聞こえる小さな呟き。甘えるような諭すような。
「黒崎くん・・・これじゃ花びら取ってあげられないよ?」
「構わねぇよ・・・ここに居るから」

そうここに、ずっとずっと。

「うん・・・じゃあ、ここに居ようね?」




お前の傍に。

あなたの傍に。


これから先、どこへいこうとも。
いつでもここに、帰ってくる。


<ここに、ずっと>


end

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