応接間

□どきどきバレンタイン
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チョコレートは好物だが、この時期だけはそう口に出したくねぇって思っちまうのは、俺だけか?


<どきどきバレンタイン>


「あれー浅野くん、今日はお昼チョコパンなの?」
「はーい!何せ今チョコレートこそがこの浅野啓吾のフェイバレットシング!いくつ食べても食べ飽きないくらいのブーム中!なんたってテスト勉強のお供にもグー、美容や健康にもグググのグー!!って優れもの!そこんとこよろしくーーー!!!」

あああ・・・
なんなんだよそのあからさまな啓蒙活動(??)は??
2月に入ってからこっち、ずっとそれってどーなんだよ啓吾??

「浅野啓吾!チョコ大好き浅野啓吾をよろしくお願いしまーーす!チョコはいつでも受付中、当然前倒しOKで!!」
去っていくクラスメイトの女子達に手を振りまくる啓吾。
(前倒し?前倒しってなんなんだ??)
「見苦しいですよ浅野さん。土曜日じゃ義理チョコが減りそうだからってそこまでしたら普通ヒくんじゃないですか?」
携帯を打ちながらの水色のツッコミ。
「えええ〜?でもでもっ死活問題だろっこれは??だって土曜日つーことはだよ!秘かに俺に想いをよせる女の子がああどうしよう学校お休みで渡せないわって今まさに思い悩んでいたらどーすんだ???可哀想じゃないか!そんな迷えるカワイコちゃんのために道を指し示すことこそ男の務め!」
「はいはい、いつも幸せでいいですねぇ浅野さんは」
「あーーー!?なになになんなのっその余裕な態度っ??てあぁあ??まっまさかおねえさま方に会うには土曜日のが都合がいいなんて話じゃ・・・!??」
「ま、そんな感じですね。普段なら割り振り出来ない午前中も予定に入れられて大助かりですよ」
「くぉおおおおおおおお!!神よ!この罰当たりな男に天罰を与えたまえーーー!!」




「どうしたの黒崎くん?」
「あ?・・・ヤ、なんでもねぇ・・・」
そうだ今はもう帰り道。
隣にいる井上を見てたらつい、つい・・・昼間の啓吾のことを思い出しちまって、よ・・・

ヤ、べ、別に。
おっ俺はその、井上から貰いてぇなんてンなことは、特にその、ど、どっちでもいいって言うか、だけどよ??

「ホント?」
「おう・・・ちょっと、考え事しちまっただけだ、悪ぃな」
「そっかぁ・・・」

そんな俺達に木枯らしがビュウ、と吹きつける。
「きゃ・・・」
慌てて髪を押さえる井上。俺もぶるっと身震いしてコートの襟を立てる。
「び、びっくりしたね、風冷たくって?」
「あー、もう2月だもんな、しょうがねぇよ・・・?」

(しまった!)
俺は内心冷や汗。
イヤイヤ!に、2月だからって言って俺はべべ別に!
い、井上にちょっと確認してぇとかなんとかじゃねぇんだぜっホントだからな!!

「あっそっそう!そうだよねっに、2月、だもんね??」
焦る俺に負けない程わたわたした言葉を発する井上。
「お、おう、2、2月、だな?」
「う、うん、2月、だねぇ?く、草木も眠る丑三つ時って言うか、寒いのもピークっていうか!!」
「ちょ!前半なんか間違ってるし!」
「あ、そうか!それは夜中の2時だね、あはははは・・・」

笑った後でなんでか下向いて頬を赤らめる井上。
あーあー、白いマフラーに口元埋まってるっての。

「あ、そそっそうだっ黒崎くん!」
「な、何だ??」
急に声を張り上げた井上にびっくり(つか、既に心臓が妙な具合だったもんでよ・・・)しながら応える俺。
「え、ええとね・・・く、黒崎くんは、どんなお菓子が好き、ですか?」
「菓子?」
「うん。・・・あっほら!今度テスト勉強一緒にするときのお、お、おやつをね?な、何にしようかなーって思っただけなんだけどね?!」
ナンだよそのきょどきょどっぷりは?

「あー・・・俺が好きな菓子は・・・」
そりゃやっぱ、チョコレートだよなぁ。テスト勉強で一息入れるときは欠かせないぜ、俺的には。
と思ったところで頭の中でがなりたてる声が!
『チョコ大好き浅野啓吾をよろしくお願いしまーーす!』

だ・・・だめだぁあああああ!!チョコレートだなんて言えねぇ!!ぜってーだめだっ!!
ンなこと言ったらあれだ、啓吾と一緒で単にバレンタインにチョコ欲しいだけだって思われちまうに違いないじゃねーか!!
井上に、井上にンな風にはぜってー!思われたくねぇっ!!!


「・・・・・・」
「??」
黙っちまった俺を目を瞬かせながら下から覗き込んでくる井上。
くうっ。
そ、そんな可愛い上目遣い・・・ダメだろっ常識的に考えて!い、一体俺をどうしてぇってんだ??

「あ、イヤ・・・そ、そうだな・・・そ、そう言やぁ最近、変わりせんべいってのに妹達が凝っててよ?結構、そんなんが好き、かも、だな?」
「そ、そっか、お、おせんべい、かぁ・・・ど、どんな味があるの?」
「こ、この間は・・・激辛七味唐辛子せんべい、とか、胡椒味、とか・・・マヨネーズ風味もあったなぁ・・・」
「それで黒崎くんはどれがお気に入り?」
「そうだなぁ、胡椒とかわさびなんて結構、ぴりっとしててよかったぜ?眠気吹っ飛ぶっていうかよ・・・?」
「なるほどねー!テスト勉強にはぴったり、ですな?」
「お、おう、そ、そう、かもな??あ、眠気にならミントのタブレットとかも効くぜ?すーーーっとしてよ?ほ、他にもよ・・・」

チョコレート、という単語を出さないようにと、いつもよりずっと饒舌に色々な菓子を挙げてみる俺。

そ、そうだ。
これはあくまで!テスト勉強の時の菓子の話をしてるんであって!!
それ向きな菓子を答えればいいんだからなっうん!
ま、甘いもの好きな井上は井上で当然なんか甘モノも用意するに違いねぇし・・・疲れた頭の糖分補給はそれですることにして、ここは俺っぽい菓子を答えておけばいいさ!俺のイメージ損なわねぇような!!


そんで・・・そんできっと、バレンタインはバレンタインでちゃんと、じゅ、準備、してくれるよな?お、俺のための・・・チョコを、よ・・・???そりゃだってまがりなりにも俺は井上のカレシな訳だし、よ・・・



この時俺は分かってなかった。
イヤ、俺の彼女が、俺の好みを最優先で大事にしちまう奴で、しかも信じらんねぇくれぇ素直だってことは前から分かってた、にも関わらず・・・自分がどれだけ大きな過ちを犯したか、全く気がついてなかったんだ・・・


悪ぃ。
バレンタイン当日、テスト勉強と称してやってきた井上が真っ赤になりながら渡してくれたものについて、俺はどう語っていいのかぶっちゃけ全く分かんねぇんだ・・・
ただ一つだけ。それでも井上の喜ぶ顔が見たくて、そりゃーーーーもう筆舌に尽くしがたい努力をした、ってことだけは・・・理解してもらえりゃありがてぇぜ・・・(涙)。


ところでだ。
俺は井上にいつ、本当のことを告白すりゃいいんだ?
「俺が一番好きな菓子は、チョコレートだ」ってよ?しかもあまり混ぜ物なしのほろ苦いのが一番好きなんだって??
言わねぇとなんねぇ、絶対に。す、少なくとも来年の2月になる前にはきっちりはっきりと!!!
そう、痛む腹を押さえながら誓った2月15日・日曜日。


    end


2009.2.8 written by ぐわ "月花騒迷"
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