§短編書物庫§

□【〜紅い薔薇との甘い一時〜】
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〜Side セーラ=フィニス=ヴィクトリア〜

トントントン……

グツグツグツ……

シューシュー……

「そろそろ煮物が出来る頃かしら……」

野菜を切る手を止め、肉じゃがを煮込んでいる鍋へと近付く。

そして、用意していた竹串を使い、煮込んでいたジャガイモを一突きする。

スッ……

すると竹串は、途中で止まる事無くジャガイモを貫いた。

どうやら上手く煮込めているらしい。

「それじゃあ次は、玉子焼きね……」

大樹の妹である小雪に教わった玉子焼き。

教わったのはもちろん、大樹が好んでいる味付け。

(美味しいって言ってくれるかしら……)

大樹の喜んでくれる顔を思い浮べながら、料理を続けていく。

ちなみに、なぜ私が料理を作っているのか……

それにはもちろん理由がある。

手を動かしつつ、厨房に掛けてある掛け時計に視線を泳がす。

時間は七時ちょっと前。

(後少ししたら、大樹を起こしにいかないといけないわね……)

そんな事を考えながら、出来上がっていく料理を重箱へと詰め込んでいく。

私が料理をしている理由。

それは、今日が待ちに待った、大樹とのピクニックだからだ♪

〜Side セーラ=フィニス=ヴィクトリア End〜

…………

……

ジリリリリリリリッ!!

突然頭の上で、けたたましい音が鳴り響いた。

「うっ……」

ジリリリリリッ……カチャン……!!

目が覚めてしまった俺はこの騒音から脱する為に、目覚まし時計に平手打ちをかまして音を止めた。

それから窓の方をチラ見する。

窓の外では太陽が昇り始めており、朝の到来を教えてくれた。

(まだ早いし……もう一眠りするかな……)

コンコン……

そう思い布団に潜り込んだ瞬間、控え目なノックが聞こえてきた。

コンコン……

「おいっ……アルベル……ト……っていないんだったっけ……」

同室のルームメートであるアルベルトに頼もうとしたが、奴が昨日から帰ってきていないのを思い出す。

(まったく……毎度毎度何処に行ってるんだか……)

悪態を吐きながらもベッドを抜け出し、扉へと近づいていく。

(そういや、今何時だ?)

途中で足を止め、アルベルトの机に置いてあった置き時計をに視線をやった。

只今の時刻、七時ちょっと過ぎ。

コンコン……

「あぁ、はいはい」

とりあえず待たせるのも悪いと思い、俺は急いで扉を開けた。

「おはよう大樹。よく眠れたかしら?」

扉を開けると、いつもの私服を身に纏ったセーラが立っていた。

(あっ……そっか……)

ようやく頭が冴えてきた所で、何故セーラが此処にいるのかを理解した。

セーラは俺を起こしに来てくれたのだ。

ピクニックに行くにあたり、俺が寝坊するかもしれなかったので、セーラに起こしに来てくれるように頼んだのである。

「はぁ……本当にまだ寝間着姿なのね」

セーラは呆れたような目で俺を見る。

「あなたって本当に朝に弱いわね」

「あははは……面目ない……」

俺は正直に頭を下げた。

「ふぅ……」

セーラは軽い溜め息を吐くと同時に、腕を組んだ。

豊かな二つの膨らみが、組まれた腕によって持ち上がり、その存在をこれでもかと言う程に主張している。

ある意味で目に毒である。

「ふぅ……まぁいいわ。それより早く支度して頂戴」

「了解。中に入るか?」

セーラは俺の質問に、軽く首を横に振った。

「遠慮しとくわ。用意ができたら部屋まで来て」

そう言い残し、セーラは部屋の前から去っていった。

「さて、セーラを怒らせる前にさっさと用意しますか」

俺は扉を閉めて部屋の中に戻ると、急いで洗顔、着替えを済ませる

それから、携帯、財布をポケットに納め、部屋を出る前にもう一度忘れ物が無いか確認して部屋を出た。

「よぉ大樹。どっか行くのか?」

部屋から廊下に出た時、同居人が帰ってきた。

「ちょっとな。これから寝るのか?」

「そうだな。昼頃までは寝る」

「そうか。それじゃ行ってくる」

「おう。楽しんでこいよ」

俺はアルベルトに手を振りながら一階と降りた。

そしてそのまま、セーラの部屋へと向かう。

コンコンコン……

部屋の前で立ち止まり、扉をノックする。

『はーい』

中から声が帰ってくる。

ガチャ……

扉が開き、中からセーラが出てきた。

「随分早かったわね。もう少し掛かると思ってたのに」

「いや、待たせすぎるのもどうかと思ってな。それに、一秒でも多くセーラと一緒にいたいし」

「ちょ……いきなり何言ってるのよバカ!!」

俺の本心の言葉を聞いたセーラは、顔を真っ赤にしながら、持っていた手提げ鞄を俺の方に突き出してきた。

どうやら「持て」という事らしい。

(まったく……素直じゃないんだから……)

俺は気付かれない程度に笑いながら、差し出された鞄を受け取る。

ギュッ……

「あっ……///」

それと同時に、セーラの手を握る。

「行こうぜ、セーラ」

「あっ……ええ♪」

セーラがにっこりと微笑み返すのを確認するのを確認した俺は、セーラの手を引いて寮から出た。

それと同時に、暖かな風が頬を撫でていく。

左手には弁当の入った鞄。

右手にはセーラの柔らかな手。

(幸せだなぁ……)

右手に感じる柔らかさに幸せを感じつつ、セーラの手を強く握る。

それに答えるかの様に、セーラが握り返してきた。

「よし、行こうぜ!!」

俺はセーラの手を引く。

さぁ、ピクニックの始まりだ!!

〜End〜

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