§短編書物庫§

□【温泉と女の子】
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「ねぇお兄ちゃん。最近この島で温泉が見つかったって知ってる?」

朝の食堂でお馴染みのメンバーと朝食を取っていると、突然小雪の口からそんな言葉が出てきた

「いや知らんが……この島に温泉なんかあったのか?」

「うん。なんか最近、温泉が湧きだしている場所が見つかったんだって」

「あっ、それ私も聞いた事あるよぉ」

相変わらず朝からご飯を大盛りで食べている優花先輩が、隣から話しに入ってくる

「確か学園の裏にある山の麓付近にあるんだよね」

「そうらしいですね。でも見つかったばかりだから、あまり多くの人には知れ渡ってないみたい」

「ふーーん……」

俺は話しを聞きながら、頼んだ定食に付いていた沢庵を齧る

「あの〜〜……聞いてもいいでしょうか?」

おずおずとアリシアが手を挙げた

「どうしたアリシア?」

「オンセンって……なんですか?」

アリシアの言葉に、セーラ、レナニナの島出身組が頷いた

「セーラ達は温泉に入った事がないのか?」

「ええ。見た事も聞いた事もないわ」

「あたしもーー!!」

「わたしもです」

三人から同じような答えが返ってきた

「この島って温泉無かったんですか?」

俺は優花先輩に質問してみた

「そうみたいだね。私がこの学園に入学してから今まで、温泉は見た事がなかったよ」

最上級生の優花先輩が言うから間違いないのだろう

「でも温泉が無かったっていうのも珍しいよね」

「そうだな。この島にもあるもんだと思い込んでたぞ」

「でもこんな島だからこそ、温泉って珍しいんだと思うよ」

「それもそうっすね」

俺達、外の世界組が共通の話題で盛り上がる中、島出身の四人は頭に『?』を浮かべ、話題に付いていけてない様子だった

それを気付かせてくれたのは、隣で俺の服をチョイチョイと引っ張っていたセーラだった

「どうした?」

「『どうした?』じゃないわ。あなた達だけで盛り上がらないでよ」

「あっ、ごめんなさい。私達だけで話しちゃって」

四人に気付いた小雪が即座に詫びを入れる

「いえ、謝ってもらうほどの事じゃないですよ」

「でもアリシアさん達は退屈だったんじゃないですか?」

「確かに小雪ちゃんの言う通りですけど、私はそこまで気にしてませんよ」

アリシアは笑顔で答える

セーラ達もアリシアの意見に納得しているらしく、小雪に笑い掛けていた

「それで、オンセンと言うのはなんなの?」

セーラは俺の服を握ったままで、向かいにいる小雪に問い掛ける

その間、セーラは俺の服を掴んでいる手を離そうとはしない

それは、人前では甘えられないという歯痒さに抵抗している彼女なりの小さな努力なのかもしれない

(セーラは何かとプライドが高いからなぁ……さすがにみんなの前じゃイチャつけないよなぁ……)

まったく、可愛い彼女様だ

俺はそんな事を考えながら、小雪の説明を聞こうと耳を傾ける

「温泉ってのはですね。地下に貯まっている水が、地球の地熱に温められて出来たお湯の事です」

「それが何らかの偶然で地表に湧きだして、温泉を作り出す。いわば外にあるお風呂だね」

小雪の話しを引継ぎながら、優花先輩が説明を続けた

「へーそうなんだぁ。それじゃあ、そのオンセンってのには裸で入るものなの?」

「普通はそういうものだよ」

「でも見つかった温泉は何もしてないから、否応無しに混浴みたいだよ」

「優花先輩。それ本当ですか?」

俺はそれを聞き、即座に聞き返してしまった

「本当だよ♪」

「マジか……それじゃあ俺は入るわけにはいかないよな……」

「えっ? 大樹は一緒に行かないの?」

セーラが身を乗り出して聞いてきた

「だってなぁ。いくら混浴といえど、このメンバーで行ったら俺という男がいるんだぞ。みんなは俺の前で肌を晒す事になってもいいのかよ?」

俺がそう言うと、

「私は大樹だったら構わないわ」

「私も大樹さんだったら構いません」

「お兄ちゃんなら平気かな」

「大樹くんだったら大歓迎だよぉ♪」

「大樹さんなら平気だよ!!」

「わ、私も平気です///」

などと、全員が構わないと言う始末

「あはははは……いいのかよ……」

俺はみんなに信用されているのを嬉しく思う反面、男として見られてないと考えるとかなり悲しかった

でも……

「どうしたの?」

俺の隣に座っている紅髪の彼女は、他のみんなとは違う考えで言ってくれているだろう

「いや、なんでもない」

「変な大樹」

そう言うセーラの頭を、クシャクシャと撫でた

「それじゃあ行くメンバーは、今此処にいる七人でいいんだな?」

全員を見回しながら言うと、全員が頷き返してくる

「出発時間はどうする? さすがにこんな朝っぱら行くって事は無いよな?」

「さすがにね。晩ご飯を早めに取ってそれから行こうよ」

「それが一番ですね」

「じゃあ決まりだな。必要な道具は各自に任せるって事でいいな」

「ええ、分かったわ」

セーラが頷くのを合図に、全員が再び朝の団欒の雰囲気へと戻り、朝食を食べる者もいれば、隣の者と話し始める者もいた
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