§短編書物庫§

□【あなたの側に……】
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カツカツカツ……

外へと繋がる階段を一歩一歩登っていく。

天国への階段なのか地獄に誘う階段なのかは分からない。

まぁ実際、そんな格好良い事を考える事自体、俺には合わないのだろうけれども。

カツカツカツ……コツ……
階段を登りきった俺は一度足を止めた。

そして着ていた制服の内側ポケットから、小さく折り畳まれたメモ用紙を取出し開く。

『卒業式の後、屋上で待ってるね♪』

メモ用紙にはそう書かれてあり、差出人の名前は書かれていない。

だがしかし、書かれている文字は何処からどう見ても、小さな頃から見慣れている『あいつ』の文字だった。

(一体何の用があるっていうんだよ。帰りに話せばいいものの……それ程大切な話しなのか……?)

俺はそんな事を考えながら、メモ用紙を内ポケットにしまう。

そしてドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開いた。

(うっ……)

開けた途端、目が眩む程の光が俺を襲う。

俺は左腕を目の上に持っていって光を遮り、目を細める。

そうしたままで辺りを軽く見回す。

すると、屋上のフェンス越しに校庭を見下ろす『あいつ』の姿があった。

俺はドアを閉め、『あいつ』の方に向かって歩いていき、隣で立ち止まった。

「こうやって校庭を見下ろすのも、今日で最後なんだよね」

先に校庭を見下ろしていた先客が、そんな事を聞いてくる。

「だな。昼休みには、よく此処で飯食ったよな。お前の手作りの弁当でさ」

「うん」

軽く返事をすると、【緋茉莉】(ひまり)は俺の方に体を向けた。

「いつも『美味い!!!』って言って食べてくれたよね」

俺も緋茉莉の方を向く。

「ある意味じゃ、お前の作ってくれる弁当が昼休みの楽しみだった」

「そうだったんだ。えへへへ♪」

緋茉莉は嬉しそうにはにかんだ。

「私も……私も、【枢】(かなめ)くんのお弁当作るの楽しかった」

そう言って、緋茉莉が俺の顔を見つめてくる。

その顔は少し赤く染まっており、瞳は少し揺らいでいる様に見える。

「ど、どうした?」

それを見て、少し立ちろぐ。

「手紙……読んだから来てくれたんだよ……ね?」

俺は頷く。

「そもそも読んでなかったら此処にいねぇよ」

「あははは……それもそうだよね」

緋茉莉は苦笑いを浮かべる。

「それで、話しってなんだよ?」

「あっ、うん……えっとね……その……枢くんって……今好きな人って……いる?」

「はぁ? 好きな奴?」

突然何を聞いてくると思ったら、かなりしょーもない質問だった。

けれども、

「……」

こんなに真面目な顔をして聞いてくる緋茉莉に対して、曖昧な答えは返せそうにもない。

「んー……まぁ、好きと言うより、気になっている奴ならいるな」

ぶっちゃけ、目の前にいる幼なじみの事なのだが、そんな事口が裂けても言えるはず無い。

しかし、そんな甘い考えは、すぐに無散してしまう事になる

「っ……そう……なんだ……」

俺の返答を聞いた緋茉莉は何故か俯いてしまい、後ろに一歩下がってしまった。

「その気になる子って可愛いの?」

緋茉莉は俯いたままで問い掛けてくる。

「そう……だな。俺が見る限りじゃ一番だな」

俺がそう答えると、緋茉莉はまた一歩後ろに下がってしまう。

勿論顔は下を向いたままである。

しかし、その俯いた顔から何かが零れ落ちていっているのに、俺は気が付いてしまった。

「それじゃあ、最後の質問……いいかな……?」

そう言って顔を上げた緋茉莉の瞳は涙で溢れ返り、頬を伝って流れ落ちていた。

「その子の事……私よりも……好き?」

「っ……!!!」

俺はその問いによってようやく、緋茉莉が何故俺を屋上に呼び出したのか。

その理由を俺は理解した。

「どう……だろうな……」

俺は答えをはぐらかしながら、緋茉莉の方に一歩近づく。

それに対して、緋茉莉は後ろに下がるような事はしない。

「はぐらかさないで……ちゃんと……答えてよ……そうじゃないと……私……」

そう受け答えする緋茉莉の手が、制服のスカートを強く握り締めているのが目に入る。

「なら聞くけど、緋茉莉は好きな人いるのか?」

「……いるよ」

返ってきた答えに、俺の繊細な心は少し傷ついた。

「へぇ……誰なのか教えてくれよ」

俺はそう言うと、緋茉莉との距離を詰め目の前に立った。

「……私の好きな人は……私の作った料理を、『美味い』って言いながら食べてくれる人……私の褒める時、頭を撫でてくれる人……」

そう言って、緋茉莉は俺に抱き付いてくる。

柔らかな二つの膨らみが、俺の胸板に惜しみなく押しつけられている。

「お、おい!?」

「枢くん……私は……あなたが好き……」

俺に抱き付いたままの状態で、緋茉莉が告白してくる。
「一番じゃなくてもいい……枢くんが他の子の事が好きでも構わない……それでも……私は枢くんの事が大好きなの!!!」

涙声で自分の気持ちを告白してくる緋茉莉。

「緋茉莉……」

俺はそんな緋茉莉を左手で抱き締め、右手で頭を撫でた。

「かなめ……くん……?」

驚いたのか、緋茉莉は顔を上げて俺の顔を見る。

瞳にはまだ涙が溜まってはいたが、とりあえずは泣き止んだようだ。

「緋茉莉。俺もお前の事が好きだ」

そう言うと、緋茉莉は信じられない様な顔をしたが、それも一瞬の事で、再び涙が頬を伝った。

「嬉しい……嬉しいよ枢くん……」

「俺もだよ」

「枢くん……んっ……///」

緋茉莉は戸惑う事なく、俺に口付けてきた。

俺は緋茉莉の体を強く抱き締め、初めてのキスを存分に味わう。

「んっ……はぁ……初めてキス……甘かった……///」

緋茉莉はそう言い、指で唇を擦る。

「ねぇ……もう一回……」

「ああ……」

既に頭がボーっとしていた俺は、条件反射で答えていた。

「んっ……///」

緋茉莉は再び唇を押し付けてくる。

がしかし、今度は少し違っていた。

「ちゅ……んふっ……」

緋茉莉は唇を強く押し付けると同時に、俺の唇の隙間から舌を差し入れてきたのである。

いわゆるディープキスと言われてるやつだ。

「ちゅ……んっ……」

緋茉莉の舌が、うねうねと俺の舌に絡み付いてくる。

俺は頭がショートしてしまっていたので、緋茉莉の為す術になっていた。

「んっ……ちゅ……はぁぁぁ……///」

緋茉莉は唇を離すと、妙に色っぽい吐息を吐き出す。

俺はそんな緋茉莉を見ていたら、俺の中の何かがプッチンした……

気がした。

俺は力一杯、でも出来る限り優しく緋茉莉を抱き締め、耳元にそっと近づき囁いた。

「緋茉莉……お前が欲しい……」

「あっ……///」

俺の言葉に小さな声をあげた緋茉莉だったが、やがて控えめな頷きが返ってくる。

「枢くんに……抱いてもらいたい……///」

「なら、ちょっと場所移動だ」

俺はそう言うと、人目に付きにくい屋上入り口の裏に移動した。

「ここなら人目につかないな」

俺がそう言うと、

「初めてだから……優しく……してね……///」

緋茉莉は潤んだ瞳を俺に向けながら、甘える様にそう告げた。
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