§短編書物庫§

□【赤い絆】
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「もう、どうしたの?」

「いや、ちょっと考え事を……」

「まぁいいわ。それじゃあ行きましょうか」

「ああ」

俺達は街中にある鍋屋を目指して歩きだす

今日は休日だったので、普段より些か人が多い

ぐいっ……!!

「きゃっ!!」

俺ははぐれないようにする為、隣を歩く瑛里華の肩を掴んで引き寄せた

「きゅ、急にどうしたの? びっくりしたじゃない」

「あっ、ごめん。この人混みだからはぐれないようにしようと思って。嫌だったら離すぞ」

「もう……」

瑛里華が体をくっつけてきた

おかげで、ちょうど寄り添うような格好になっている

「ちょっと驚きはしたけど……嫌な事なんてある筈ないわ♪」

瑛里華はそう言って、俺に笑い掛けてくれる

「それにしても、今日は本当に人が多いわね。何かあってるのかしら?」

瑛里華が呟いた所で、前方の方に人だかりの正体が見えた

多くの人が列に並んでいる

その先頭付近では、ガラポンが行なわれている

「なるほどな……」

「孝平。何を納得しているの?」

「この人だかりの正体さ」

「何だったの?」

「これさ」

俺は手を回して、ガラポンを回す真似をした

「なるほど。それならこの人込みの理由も納得がいくわね」

「そうだな。それじゃあこれ以上人が溢れる前に、店に向かおう」

「そうね」

とりあえず、俺が人込みを掻き分けて道を作りながら進むと、その後ろを瑛里華がぴったりと付いてくる

左腕で赤ん坊を抱き、右手で俺の服の裾を握っている

おそらく裾を握っている理由は、はぐれないようにする為だろう

それだけで頼られていると実感でき、少しながらも嬉しく思えた

「よい……しょ」

俺は最後の人込みを掻き分け、ようやく反対側の通りに出た

「ようやく抜け出せたな」

俺は後ろにいた瑛里華に声を掛けた

「ええ、少し疲れた感じだわ」

「あははは。それじゃあ一秒でも早く店まで辿り着かないとな」

俺はそう言い、瑛里華の肩を抱く

そしてそのまま歩きだす

運良く、目的の店まではあまり距離が無く、ものの五分程で到着した

俺たちは店内に入ると、窓際の席へと案内された

「さてと……」

俺は立て掛けてあったお品書きを手に取り、瑛里華にも見える様に開いた

「瑛里華はどのモツ鍋がいいんだ?」

開いたお品書きには、『激辛モツ鍋』や『冷やモツ鍋』が書いてあった

(この鍋屋には、普通の人が食える物が置いてあるのか? しかし『激辛モツ鍋』とは……紅瀬さんが喜びそうなメニューだな……)

そう思いながら、メニューをめくっていく

「あっ、孝平。ちょっと前に戻ってくれる」

「んっ、了解」

瑛里華に言われた通りにページを戻す

「これが食べたいかも」

そして戻したページにある写真を指差した

瑛里華が指差したのは、『親子モツ鍋セット』という、普通のモツ鍋と親子丼がセットになっているメニューだった

「わかったよ」

俺はテーブルにセットしてあった鈴を鳴らして店員を呼び、決まったメニューを店員に告げる

「それでは、少々お待ちください」

店員はそう告げると、厨房の方へと去っていった

「そういえば、この後はどうしようか?」

とりあえずは昼食を食べるという事で此処に来たが、この後の予定は全くと言っていい程考えてはいなかった

「そうね……普通ならショッピングをして、少し疲れた所で喫茶店に入って休憩。そして真っ赤な夕陽が見れる海で口付けを交わす……って言うのが、普通の恋人達がするものなんだろうけどね」

「瑛里華はそうしたいのか?」

「えっ?」

瑛里華は少し驚いた顔をした

「別に、結婚して子供が出来たからしちゃいけないって法律がある訳じゃないんだし、それに伽揶にも外の雰囲気をもっと感じてほしいしね」

そう言いながら、瑛里華が抱いている伽揶に笑い掛ける

「それでどうだろ。この後の予定は、瑛里華が言った通りにするって事で」

「そう……ね。孝平が良いというなら、それでもいいかもね」

瑛里華はそう言って笑う

「それじゃあ決まりだな」

「ええ」

瑛里華が答えると丁度に、注文していた『親子モツ鍋セット』がテーブルに運ばれてきた

美味しそうなモツ鍋がグツグツと煮立っている

「さてと。それじゃあ食べるか」

俺は付いていたおたまで鍋の中を掬って小皿に移し、瑛里華へと手渡した

「ありがとう」

膝の上に座らせる様に伽揶を寝かせた瑛里華は、置いてあった割り箸を手に取り、小皿に移したモツ鍋を口にした

「どう?」

俺はモツを食べる瑛里華に聞いてみた

すると瑛里華は、

「とても美味しいわ♪」

と、笑顔で返してくれた

「俺も食べよっと♪」

そう言って、俺もモツ鍋に手を付け始める

食べ始めた後、俺と瑛里華は他愛も無い話しに花を咲かせながら箸を進めた

この時俺は、心の中で願った





『この幸せが、一秒でも長く続きますように』

と……


〜The End〜
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