立海大附属

□答えは、イエス。
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 今、現在の状況を口で表すことは大変難しいと思います。
 降り止まない雨の中、傘を忘れた私はびしょ濡れで家に帰宅しました。此処までは良かったのですが、何故か玄関には見たことのない男物の靴が置かれており。一体誰のだろう。泥棒さんでしょうか。けれど靴を一々脱いで、その上、律儀に揃える泥棒さんなんて珍しい。うーん、うーん、と何度も唸りながら取り敢えず部屋にあがることに。そろりと忍び足で居間に迎うと一つの影が見えてきた。泥棒さんはどうやら居間に居るようで。バレないように襖から居間を覗くと、其処に居たのは泥棒さんではなく見知った人でした。
 クラス一、否もしくは学年一格好良いと呼ばれる銀色の髪が特徴的な仁王くんが居たのです。これには驚ろかされ思わず手にしていた鞄を落としてしまいました。ドスンと豪快な音が鳴り。当然、その音に仁王くんは気付く訳で。こちらを見てきた仁王くんとバチリと目が合ってしまいました。
 お互いに何秒間もの睨めっこ。何か話さないといけないのだけれども何を話せば良いのか分からない。

「えっと…こんにちは?」

 取り敢えず挨拶してみたら仁王くんは少し驚いたというか意表を突かれたような顔をして。はて、私は彼を驚かすようなことを言ったのかな?なんて思っていたら、今度は急に笑いだす仁王くん。何が可笑しくて笑うのか全くっと言っても良いほど分からない私は首を傾げるばかり。

「に、仁王くん…?」
「くく、すまんのう。」

 私が声を掛けると彼は笑いながら謝ってきて。私はどう返答すれば良いのやら。それよりも彼はどうして私の家に居るのでしょう。これが気になって仕方がない私は勇気を出して聞いてみました。

「あの、仁王くん。どうして私の家に居るの?」
「嗚呼、実はのお前さん教室にこれを忘れたじゃろう?」

 そう言って彼が鞄の中から出してきたのは私の携帯電話でした。えっ嘘、私忘れてたと思い慌ててポケットの中に手を突っ込むとあら不思議。携帯電話がないではないですか。いつも入っているはずの携帯電話。しかし何故かポケットの中には入っておらず。どうやら仁王くんの言う通り教室に忘れていたようです。ということはもしや彼はわざわざ届けに足を運んでくれたのでしょうか。何と親切な。私の中で彼の好感度が一気に上昇しました。
 彼が家に上がっているのもきっと私の親が上がらせたのでしょう。そして上がらせたまま何処かへ出掛けたんだと思います。取り敢えずお礼を言うべく私は彼の前に立ち、頭を約六十度下げました。

「その、届けてくれて有難う御座居ます!」
「否、別に構わんよ。あと」

 ほれ、と前に出された携帯電話。私は再度お礼を言ってからそれを受け取ろうとしましたが、ひょっいと何故か上に上げられてしまいました。なので腕を伸ばして取ろうとすると次は左側に。又、腕を伸ばしますが今度は右側に。これは一種のイジメか何かでしょうか。

「に、仁王くん…?」
「返してほしいか?」

 ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる彼は実に愉快そうで。どうやら私をおちょくって楽しんでいる様子。

「…返してください。」
「嫌じゃ。」

 頼んでも彼の返答はノー。少し頭にきた私は無我夢中で彼から携帯電話を取り返そうとしました。しかし中々取り返すことが出来ません。丸で私の手の動きが分かっているかのように彼は上手く躱すのです。
 次第に私の表情は険しく、否暗くなっていきます。唇は軽く尖らして。眉間には深い皺を寄せて。いかにも不機嫌そのもの。
 けれどそんな顔をしたって彼は携帯電話を返してはくれません。逆に先程よりも愉快そうな表情をしていて。折角上がった彼の好感度は一気に下がりました。

「意地悪ですよ仁王くん。」
「お前さんが単純すぎるだけじゃ。」

 ほーれほれと業と私の目の前で携帯をぶらつかせる仁王くんは本当に意地悪な人だ。


「私をいじめて楽しいんですか?」
「そりゃのう。好きな子ほどイジメとうなると言うじゃろ?」

 彼の言葉に私は赤面状態。そんな言い方をされたら彼の言う単純な私は馬鹿みたいに自惚れてしまうじゃないですか。それを知ってか彼は又、意地悪な笑みを浮かべます。

「これを返してほしいんなら俺と付き合いんしゃい。」

 そう条件を出してくる彼。だけど仁王くん。私の中ではもう答えは決まっていたのです。これは携帯を人(物)質に取られているからではありません。貴方が家に来た時から私の鼓動は高鳴り続けていたのです。


答えは、イエス。

(ではお付き合いお願いします。)
(本当にいいんか?)
(貴方がそう仕向けたんじゃないんですか。)


 彼はこれが狙いで私のポケットから携帯を抜き取り家にまで来ただなんて、この時の私はまだ知らなかった。






 今回は敬語主人公!



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