drylove
□ヒゲキ
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深夜、月がうっすら三日月を描いていた。
朽木隊長の家の庭でゆっくり眺める
「ねぇ、紫紅覚えてる?」
「何を?」
廊下に座り二人肩を並べてお酒を口にしている
静かで、虫達の音色がやけに響いた。
「まだ、千李おばさんの所に居た頃の事」
にやっとする紫紅。
名無しさんは何処か遠くを見ている。
「当たり前だ、あの娘は名無しさんはまだ鼻水垂らしていた餓鬼だったからな」
「垂らしてないから」
クスクス笑う名無しさんに便乗する。紫紅は杯を口にして静かに床に置き、袖に手を隠す。
「あの頃は千李と遊埜の奴が一番はしゃいで居たよな…毎日毎日、遊埜は写真撮ってさ」
「千李おばさんは、こっそり遊埜さんの工場に連れてってくれたっけ」
「飯の時だって遊埜と張り合っていっつも千李に怒られてさ、出掛けにはどっちが名無しさんを抱っこするかで揉めてた事もあったな」
「そうなの?」
照れ臭そうに聞き返す名無しさんに、紫紅はにまにまと意地悪そうに笑いお猪口に、酒を注ぐ。
「何たって、お前が来るまでいつ離婚するか解らないくらい静かな夫婦だったからな」
名無しさんには想像のつかない話しで聴き入っていた。懐かしそうに語る紫紅は何処か寂しそうにも見えた。
「名無しさんを遊埜が連れて来た時の千李の顔ったらねーぜ、今までに無いくらいの声で何処の女の子よ!だもんな」
「千李おばさんらしいね」
「それから、二人は別人みたいに変わった。白哉だってそーさ、名無しさんが白哉の誕生日にってお酒を注ぎに行ったら顔にぶちまけたんだからな」
その時、仏頂面だった白哉が初めて笑ったんだ。
何せ、残っていたお酒を自分で被ったんだからな。
白哉に泣いて鼻水までつけながらしがみついて謝っていたんだ。
「まぁお前はやることが何故だか人を変えるきっかけになっていたんだよ」
イシシッと無邪気に笑った顔を見せる
うっすら笑みを含みながら名無しさんはお酒を飲む。
「紫紅が言うならそうなのかな…」
「俺もその一人だしな」
「紫紅は、変わったよ私でも解るもの」
私がやっと物事を少し理解出来るようになった頃だった。