愛+曖昧模糊


□6.それは皮膚から浸透して
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千代が泣いた。
ただ、意地悪を言っただけだった。困った様な表情を見たかっただけ、なのに泣いていた。
謝っていた。


「しゅーちゃん?どうしたの?」

手を見た。

千代の涙がうっすら乾いてきて、冷たく感じた。



「しゅーちゅん?」


遠くには立ちながら斑目の前に立ち泣いていた。
それをただ、眺めるように見ていた斑目。
まるで俺の前では泣けないといわんばかり。


遊びだった?

嫌われた?

巡る考えに涙が身体を支配する。

抱きしめたら…千代は笑ってくれた?




俺の前では俯いていたアイツは…斑目の前や恋次の前では顔を上げていた。

顔を見られても平気と言うように。


俺には…見せられない…表情。















雨の日、寒い寒いといつか呟いていた。泣きそうな表情で窓際に座っていた。

それを思い出し、ふと千代の家の前を通ると窓際で千代は泣いていた。
その下に斑目が座っていた。


後ろから抱き着き泣き声が此処まで聞こえる。
毛布に包まり泣いている。

黙っている斑目。




「あぁぁあんうぁぁああぁん」



子供みたいに泣く。

悲痛な叫び声に雨が止んだ気がした。






雨音は聞こえなくて、千代の泣き声だけが体中に巡る。




「慰めてやんねぇっつってんのにお前は…‥」


「ひっくっうっ」


「好きなだけ泣け、そんでさっさと忘れろ」


こくこくと頷く千代。
頬を赤くして、化粧もナシで乱れた髪の毛が雨に少し濡れて…痛々しく泣いていた。




「止むまで…雨が止むまででいいですから…っひっく」


「居る。雨が止むまで」





惜しむように、隠すように、怯えるように、震えるように─…‥求め頼るように泣く千代の声が体内を犯していく。


恋次は千代を笑顔にして、斑目は千代を泣かせて…………



俺は千代に何をしてあげられただろう。




悔しかった。





二人には甘えて頼っているのに俺は何でもなかった。








何も知らない。






涙の訳も。





笑わない訳も。






「しゅーちゅん……」









斑目がそっと千代の頭を撫でる。ふと、顔を上げ千代は笑顔に変わっていた。



「熱いお茶」

「はい…っ」


毛布を斑目に預け部屋に入る。






捕らえられ言われた。












「檜佐木、千代はもう要らないだろ」















要らない?
違う、こんなにも俺は千代の温もりを探している。
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