曼珠沙華


□好きだよ、やっぱ。
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「好きだよ、燕青」


「…あぁ…」




君は私の言葉を受け入れなくなった。肩に手を置くとさりげなく避ける。





「燕青、避けてる?」


「いや、別に…」


ぶつぶつ言う燕青の頬を抓る。


「髭生えかけてる」

「うっ…」

「だらし無いなぁ…私が剃ってあげるよ」



もう片方の手を伸ばす。「千代様〜」と、かわいい妹の声に離れた燕青。流石に表情の準備が出来なかった。


「あ、千代…」


「千代様っあら、燕青!何してるの?」

「サボリだよ、まったく困った奴だよ」


クスクス笑い席を立つ。秀麗の頭を撫で棚に向かう。
数冊選び、プリプリ怒る秀麗に渡す。


「さて、私も怒ってくれないか?一緒にサボリしてたからね」

「な、なっ千代様っに、そんな…」

「んー?」


戸惑う秀麗を見て可愛くてにやけた。
あまりにオロオロするもんだから吹き出してしまう。


「ぷっ…くくっ、落ち着いて。燕青には私の愚痴を聞いてもらっていたんだ。」

「え?そうなの?」

「いや―…「ありがとう、燕青。」

うやむやにすると、秀麗が資料を見て驚いている。


「なんで、わかったのかしら…千代様…」


「ん?それはね。劉輝と私の大切な人の悩んだ顔を見てすぐに解ったよ」

「それだけで、ですか?」

「あと、秀麗が此処に来た事かな。ほら、そんな事より二人ともそろそろ仕事に戻りなさい、ね?」



秀麗は燕青を引っ張り、ひらひらと指を動かし見送ると机に伏せた。
やばかった。
見られたかな?

燕青の前であんな顔するなんて疲れているのかもしれないな。


楸瑛が入って来て、ふぅ、とため息をつき寝ようとすると、首筋に息を吹きかけられ鳥肌が立つ。



「楸瑛…やめろ」

「ねぇ、千代さん」

「はい?」

「見合い、しない?」

「しない。誰?飛翔?」

「まさか、絳攸なんてどうですか?」



まさか、楸瑛が紹介してくるとは。


「絳攸ですか…そうですね……絳攸が吏部尚書になったら考えますよ」

微笑むと少し驚いた顔を見せ苦笑いをしていた。


「因みに秀麗殿には誰か?」

「何、勝負でもしてるのかい」

「…そんな」

「楸瑛、嘘をつくとき。必要以上笑ったらだめなんですよ」




口元を抑えうなだれていた。
ふと、小説を手にとり挟んでいた手紙を取り封の中から取り出す。
それをスッと楸瑛に差し出すと首を傾げて文に目を移す。


「恋文になっているかな、ちゃんと」

「……千代様…これでは…日記です…」

「やっぱりか」

「これはどなたに?」

「まともに恋文を書けるようになったら考えるよ」




滲み出るように。
晏樹でもない燕青でもない人を愛せる愛するように…




いつか





燕青じゃなくても



晏樹が居なくても






安心して幸せになれるように。

ダレカに宛てて書く恋文。







もうすぐ、


私も一方通行は許されない。
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