NOVEL〜コハク〜

□「冷たい温かさ」
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「馬鹿は風邪引かねぇって言うが・・・



 ありゃ嘘だったんだな。」

高杉は氷水が入った桶(おけ)を持っていた。





ここは快援隊の船の一室で、
窓際のベッドには坂本が横になって休んでいる。

高杉が部屋に入ってくると、坂本はむくりと上体を起こした。

「ひどいぜよ!
 そげな事言わんでもええが・・・」

だんだんと声が弱くなり、
坂本は力が抜けていくように倒れこんだ。

「オイオイ・・・。」

高杉は持っている桶をテーブルに置いた。


「反発する気力もねーのかよ。」



坂本の顔をひょい、と覗きこむ。

顔が真っ赤で、ゼェゼェ言って呼吸が整っていない。

本当に苦しそうだ。


「熱いぜよー。
 全身が火に焼かれちょるようじゃ・・・。」

「待ってろ、今タオル変えてやっから。」

高杉は坂本の額の上に乗っていたタオルを、
さっき置いた桶の中にひたした。





ったく、何かと思って来てみれば・・・。
ただの風邪かよ。




実は今朝、快援隊の方から一通の電話が届いたのだ。

「大変なんですっ、坂本さんが急に倒れこんで・・・。
 今すぐ来てください!!」


それで来てはみたものの、風邪で休んでるって・・・。
何だったんだよ、今朝の電話は。


しかも来たら来たで陸奥に

「これであやつのタオルを冷やしてきとうせ。
 頼んだぜよ。」

とか言われて、氷水の入った桶を渡されるし・・・。



快援隊にとって俺はどういう存在なんだよ。




高杉は少し怒りの念をこめて、タオルを固くしぼった。

そしてまた坂本の額にのせてやった。

その拍子に、高杉の手が額に少し触れた。






熱い。





人の温度なんて、今まであまり感じたことが無かった。

温かさがある物に触れようとも思わなかった。






指をすべらせ、頬に軽く触れた。




まるで人の温かさを初めて感じた子供のように。






すると坂本が口を開いた。

「ほぁーー、晋助の手は冷とうて気持ちええのー。」

坂本は軽く笑ってみせたが、まだどこか苦しそうだった。





「今日はもう帰るぜよ。」

「は?」

聞き慣れない言葉で、つい聞き返してしまった。

まだ居てほしいとか、そういうダダなら飽きるほど聞いたが、
早く帰らせることは一度もなかった。



「風邪をうつしたりなんかしたらたいへんじゃ。
 それに高杉にも大切な仕事があるじゃろ。
 じゃけん、早く帰るろー。」

「俺はここに残る」

高杉はわざと少し大きい声で言ってやった。


「坂本のくせに偉そうなこと言ってんじゃねーよ。
 それに俺の心配より自分の心配をしろ。
 顔真っ赤だぞ、お前。」


すると坂本は口をやや緩めて笑った。

「頑固者じゃのー。
 おまんは昔からそういう奴じゃき。」

さっきより、少しは楽になったように見えた。


高杉は椅子に座り、もう一度タオルを冷やしてやった。








いつの間にか、二人は安らかに眠っていた。



お互いの温かさを感じながら。


















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ただ看病させたかった、という話。
一発書きでupしたらなんか変な話になってしまった!sit!!
でも、ずっと看病ネタをやりたかったので、スッキリしました☆

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