NOVEL〜コハク〜

□「月明かりの下で」
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    てめー
「全力で   をぶった斬る!!」
    貴様



あの時に向けられた刃に、銀時たちはどんな感情をこめていたのだろう。

憎しみか怒りか、ましてや元同志への同情心か。

どんな感情だったなんか知ったこっちゃないが、
とても強い信念がこめられていたのは確かだった。


高杉は、桂に斬られた腹に巻かれている包帯を見た。





理不尽だ。




なぜ斬られなければならない。
俺はやるべきことをやったまでだ。

世界は俺にとって大切だった人を一瞬にして奪った。
だったら世界にも同じ苦しみを与えるのは当然のことだ。
これが自然の営みだ。

なのにあいつらは俺が変わったと言う。


変わっただと?


俺はあの頃から何一つ変わっちゃいねぇ。
変わったのはお前らの方だろう?


なぜ俺を斬った?
俺は当然のことをしたまでだ。
なのになぜ俺を軽蔑する?

自分達が正しいと思っているのか?俺が間違っているとでも言うのか?
あいつらは、まるで偽善者だ。
平気で俺に刃を向けた偽善者だ。


高杉の胸がドクン、と高鳴った。
まるで裏切られたような気分だ。






裏切る?

あいつらが?俺を?





いや、端から俺はあいつらに期待なんかしちゃいねぇ。
信念の念なんか、根っから持ってねぇ。
ただ、あの頃の事が今だに俺の記憶に深く、深く根付いていやがる。



攘夷戦争のあの頃。

同じ意志を持ち、共に戦っていた。
その時は絆とか何とか言って、仲間の一人として戦っていた。






待てよ。




もしかしたら、あの頃からあいつらは俺を仲間としてなんか見ていなかったのかもしれない。

あの頃からあいつらは俺を軽蔑していたのかもしれない。



そうしたら、あいつらはあの頃から何も変わっていない事になる。
自分の意志を貫き続けている事になる。






だとしたら






刃を向けたのは、当然のことなのか?

お互いに刃を交えたことが、自然の営みだというのか?





「高杉ぃー!」


後ろから、聞き慣れた声がとび込んできた。
坂本は一歩一歩、高杉に近付いた。

「遊びに来たぜよ!
どうじゃ、土産の酒でも一緒に」





坂本はぴた、と歩みを止めた。






高杉が坂本に刀を向けていたのだ。



窓からの月明かりで、その刀は冷たく、美しく輝いていた。



「何の冗談じゃ、高杉。」

「ハッ、冗談?これが冗談に見えるか?」


高杉の目はまばたき一つしなかった。
ただ、じっと坂本を見つめていた。

その目には冗談一つ感じられず、ひんやりとした冷たい感覚があった。
瞳の奥には、恐怖さえ感じるような、狂気がむきだしになっていた。


「どうしたんじゃ、何かあったんか。」

高杉は表情一つ変えなかった。

「お前、俺が裏切らないとでも思ってたのか。」
「何じゃて?」
「俺がてめーに刀をを向けないとでも思っていたのか。」



高杉がニヤリと笑う。
しかし、目はずっと坂本の方を見ている。


「てめーも所詮、偽善者の一人だ。」


坂本は何も言わなかった。
ただ、ぴたりと立ち止まって高杉を見つめている。


「俺のことを軽蔑してたんだろ?
 うたがってたんだろ?
 今のこの俺の姿が正しいと思うか?」



坂本はただ黙っていた。




「人間の気持ちなんて、そう簡単に変わるもんじゃねぇ。
 てめーが俺を拒絶しているのなら、お前がいつ俺を裏切ってもおかしくねぇ。
いつ俺を斬りにきてもおかしくねぇ。」


高杉の刀がチャキ、と音をたてた。


「てめーも嘘の面をかぶった、ただの偽善者だ」

「間違っちょる。」



坂本が口を開いた。
高杉の眉がぴく、と動いた。



「わしゃあ、高杉を軽蔑しようと思うたことなんか一度も無いぜよ。」

「一時たりとも、高杉を斬ろうと思うたことも、
 裏切ろうと思うたことも、
 うたがったことも無いぜよ。」



高杉の狂気が少し緩んだのが伝わってきた。



「昔から、わしは高杉を信じちょるき。」


坂本は温かい、いつもの笑みを浮かべた。


「勿論、これからもずっと信じちょる。
わしはいつまでも高杉の傍におる。
全力で守っちゃるき。」





カシャァン、と刀が落ちる音がした。


崩れるように高杉は座りこんだ。

坂本はすぐに駆け寄り、高杉の肩を支えた。
愛しい者の頬に涙が流れているのを見ると、
坂本は高杉の目にキスをした。


「何も心配することは無かとー。
 それとも何じゃ、わしの愛が足らんとでも言うんか?」

「本当に馬鹿だな、てめーは。」


情けない声で高杉はつぶやいた。

こんな情けない姿を見せれるのも、
相手が坂本だからであろう。


「辰馬ぁ。いつか俺を裏切ったら承知しねーからな。」
「いつまで待っても、そんな日は来るはずないぜよ。」


そう言うと、坂本は高杉の唇にキスをした。







月明かりが二人を包んでいた。











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長ったらしいですね;
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
結局、終わりはラブラブでしたね。((笑
次はもっと短文で終わらせるようにしたいです!
 

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