天外のガーディアン

□序章
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流れていく雲すら無い晴れた空に大きな満月が夜闇を照らし、咲き誇る花畑が微風に揺れている。まるでひとつの絵画を鑑賞している気分だ。

 その花畑の中を優美に歩く一人の女性を見つけた。
 一目で貴族以上の身なりだと分かる豪華なドレスを着た女性。彼女を追いかけて来たのは男性だった。黒髪を後ろで束ねて紫色のマントを羽織った彼は、息を切らしつつ女性の後ろを歩いていた。
 やがて足を止め、女性が男性の方に向いて会話をしているようだが幾ら耳を澄ましても内容は聞こえない。
 他人が聞いてはいけない内容かもしれないが、気になってしまうのは人間の性だ。 足を一歩踏み出した瞬間、一際強い風に煽られて思わず腕を交差する。
 彼らを見ようと目を細めた時、人とは到底思えない瞳と目が合った。相手に畏怖を与えるような鋭い眼差しに息が詰まる。
 その光景が舞い散る花弁と共に黒い渦に包まれ──

「──っ!はっ…はぁ…」

 明かりもなく、月すら差さない暗い場所で目覚めた少年は荒い息を整えて体を起こす。 いつの間にか伸ばした手を引っ込めて髪の毛をくしゃりと掴んだ。

「また、あの夢か…」

 知らない誰かの夢を何時からか見るようになってから飛び上がって起きる事が多くなった。
 溜息を吐く回数も増えた。
 あの得体の知れない黒い渦にゾッと悪寒が走るが、今はやらなければならない事がある。
 自分の人生を掛けた、一生に一度の勝負と言っても過言ではない。

──計算が合ってれば今日しか行動に移せない。しっかりしろ、自分!

 頬を叩いて頭を切り替え、目の前の格子が開かれるのを膝を抱えてじっと待った。やけに大きく聞こえる足音。
 一瞬しかないチャンスを逃がすまい、と強く拳を作りながら。

 大小様々な孤島があちこちに点在し、海に囲まれた大きな大陸がある。その大陸には双子の女神の名が付いた二つの国が成り立っている。

 人々や星が持つ永久エネルギー"秘力"を活用し、蒸気機関車を始めとする機械を主流に高度な技術を持つ"アディダス機帝国"。

 豊かな自然に囲まれ、歴史と伝統を受け継ぎながら進化を受け入れ、発展を続ける巨大国家"アディーテ王国"。
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