BOOK1《後編》

□三十七
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当初予定していたよりも、マル秘案件があっさり解決したことに、浮かれる気にもならないのに

くだらないパーティーに出席するはめになっている

次に控えている仕事は、会社を何倍も大きくし、日本を支える事が出来るかもしれないものになる

地質学者の父が、長年中東のある小国で調査していた

王族に招かれた両親と共に日本を離れ、幼少期をその国で暮らしたが

中学に入る前に、日本に残した祖父の介護をするために母と日本に戻る

調査が実を結び、埋蔵量が算出不可能なほどの石油が発見され、国は生まれ変わろうとしている

その国と日本のパイプ役に、次の王であり俺の幼なじみでもある殿下が、うちの会社を指名してきたのだ


あの国の美しい夕陽を女名無しと共に見たかったが…

いつまでも過去にすがる自分の思考に、ヘドが出る


「坂本部長お話が…」


一時帰国していた中岡が、久し振りに顔見せたと思えば、不機嫌さを隠しもせず、パーティー会場から俺を、連れ出した



* * *



「中岡、お疲れ。帰国して何か変わった事はなかったか?」


ベランダにもたれて、片手に持ったグラスの中の酒が、揺れるのをジッと見ている男名無しちゃんに

「仕事は順調。後任の彼等が、予想以上に、しっかりやってくれてる…ただ」


「………?他になにか不備でもあったか?」

グラスの中の揺れる酒から視線を外さずに、問いかける男名無しちゃんは、口許は笑っているが、全く楽しくなさそうだ

「女姓無しさんが、男名無しちゃんが赴任して直ぐに、退職していたよ…」


「…ッ…それが、何か有るのか?」


平静を装うよう、男名無しちゃんの手元のグラスは、揺れるのを、やめた




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