BOOK1《後編》

□三十五
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「毎日病院通いなんて、しなくていいのよ。 女名無し が身体壊しやしないか、母さん心配だわ」

点滴の雫が、ポトリポトリと落ちて、チューブに流れて、母の身体に入っていく

「何、言ってんの…ねぇ、そんな事より、匠、この病院の研修医になれて良かったね

もうじき家に戻ってくるし。また皆で暮らせるね。お父さんも凄く喜んでたわ」

母の枕元に活けた、小さな花瓶の水をかえながら、話を逸らす

「女名無し…貴女、会社辞めちゃって、家族の為に戻って来てくれたのは、感謝してる…でも…

好きな男性とはどうなったの?貴女が犠牲にならなくて良いのよ…」

お母さんは、いつも鋭い。胸がズキンと痛むのを無視して

「いないよ…そんな人いない。私って気が多いのかな?一人に絞れないの…なーんてね♪」

おどけて言ってみせても、母は、眉間にシワを寄せて、納得いかない顔をする

それもそうだろう。小さな頃から、お父さんが大好きで

父の喜ぶ顔がみたいから、剣道を始めた。褒めて欲しくて頑張れば、どんどん剣道に一途になった

中学生の頃には剣道が恋人で、憧れはあっても、それほど恋愛に興味無かったし

告白されも、私を異性として恋愛の対象に見られると、仲の良い友達だった男の子でも、気持ち悪く感じたほどだった




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