BOOK1《後編》

□三十六
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「今日は出て来るのに、手間取ったのか?」


「弟が家に戻ったので…」


土方さんは、いつもの様にぶっきらぼうに話すから

今から私がすることが、まるで何でも無いことのように、錯覚してしまう


今日は許して欲しいと、体調の悪さを理由に何度か、断った事もあったけど、次の日には、父の工場に揺さぶりをかけてくる


「いつもの時間に送るから、仕度してリビングで待ってろ」



最初は、ホテルだったけど、セキュリティの厳重な、マンションが、今ではホテル代わり

指紋照合のあと、ホテル並みのエントランスには、コンシェルジュが、出迎えて最上階への専用エレベーターを、開けて待っている

最上階は、一部屋しかない


本当に身体が辛い。でも、断ったらまた・・・


土方さんは居間までついて来て、私を沖田さんにリレーのバトンみたいに渡すと別室に、入って行った







憎い僕に、身体を差し出し脚を開く女名無し。嫌で仕方ないくせに、身体は快感を拾う

淫らに揺れて、乱れる事を、嫌悪するのは、まだあの男を想っているからだ


「ァ…いゃ…もぉ…ハッァ…」


もっと僕を憎めばいい。絶頂の瞬間さえも

散々、僕に玩具にされて、いつもなら、背を向けて黙って泣いてるだけの彼女

僕はそれに、苛立ちと苦い思いが交差するのが嫌で、部屋から立ち去っていた


「沖田さん…」


部屋を、後にしようとした僕に、初めて女名無しが、声をかけた


「いつまで…こんな事を繰り返せば良いの…ですか?私は沖田さんの物だわ…

もう気が済んだでしょ…解放して下さい。お願いします」


振り返る僕に、涙に潤む女名無しの視線が刺さる


「ハッ、女名無し何言ってんの?借金の肩代わりに、僕の玩具になったんだろ

飽きるまでに決まっているじゃあないか

僕から離れて、さっさとあいつの下に、逃げ帰るつもり?

そんな事をしてみろ、仕事が出来ないように、あいつを握りつぶしてやるよ

それとも、マフィアに頼んで、始末させようか?

それに残念だけど、生憎彼はもうじき、結婚するよ」

酒元の片腕である、中岡という男が帰国し、なにやら探り始めたらしいと、報告は受けている

女名無しに、接触したのだろうか?だから解放してくれなどと言ってきたのだろうか?






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