BOOK1《後編》

□三十四
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さっきバーで知り合った女が、俺の上で揺れ動く。女の影が映る、白い壁をただ見ていた

身体の中に埋まっている俺は、ひたすら快楽を貪ろうと、いきり勃っているが、気持ちは反比例して砂を噛むばかりで


こっちで、我武者羅に仕事をすれば、彼女を思い出さなくて済む

別の女を口説き、抱いて、欲望をすり替えれば、女性遍歴のなかに彼女も埋もれていくはず…

彼女の気配を感じなければ、なんとかやり過ごし、耐えられるだろう…

綺麗な女なんて、いくらでもいる

そう思おうとしていた…

忘れようと何度も言い聞かせているのに

目を閉じれば、隣で優しく微笑む女名無しが、脳裏に焼き付いて眠ることさえままならない

君に会いたいと呟いても、返事なんてあるわけもなく、駆け出して会いに行きたくなるけれど、拒絶されるだけだろう

女名無し…

…君の隣にいる男は、君を泣かしてはいないか?
そいつは君を大切に愛してくれるか?
君は、そいつに微笑みかけているのだろうか…

彼女の望み通りに別れを受け入れたけれど、簡単にどうにか出来る想いではなかった




キスをせがむ女に嫌悪し、四つん這いにさせて、腰を打ちつけた

顔さえ見なければ、女の身体なんて皆同じだろ?! そう思っていた…

女名無しを知った後では、肌の質感、肉の感触、全てが違いすぎる

気持ちの伴うセックスが、相性の良さをより引き立てた

彼女の中に溶けてゆく、魂が混ざり合うような快感なんて、誰とも得られはしない…

女が気を失って、横たわるベッドを出、シャワールームで、女名無しを思い自慰にふければ、すぐに達してしまえるのに…

鏡に写る情けない男が、未練たらしい俺を嘲笑う

苦しくて堪られない…こんな心は壊れてしまえばいい




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