BOOK1《後編》

□三十二
1ページ/9ページ


古い商家が建ち並ぶ、町並みを背に

セーラー服のまだあどけない女名無しが、大きな瞳で俺を見上げ、頬を染めて微笑んだ

俺の制止を聞かずに、ひだスカートを翻し、風にのって何処に向かって走っていく

離れては危険だと、追い掛けるが、ヒラヒラ舞う蝶々のようで

捕まえても、掴んでも、スルリと抜け手応えはなく、あっという間に霧散してしまう

そして、ずっと先で俺を振り返り瑞々しい唇が俺を呼ぶ


「龍馬さん、こっちだよ」

笑顔で手をふり、またヒラヒラと舞うように走っていく

…女名無し…待て…待ってくれ!

追いつけない自分に苛立つが、身体が重い。肩や腰を何かに押さえつけられているようだ

いつの間にか、女名無しの微笑みが消え

何かを、必死に告げているのに、君の声が聞こえない

おちついてゆっくり話そう、焦らないで良いから…

そう繰り返し告げても、女名無しの表情は、眉尻をさげて陰って行くばかりで

俯く寸前の女名無しは泣き出しそうだった

走り去る君の背を、地面に縫い付けられた重い足では、追い掛けて抱き締めてやれない






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ