BOOK1短編
□不思議先輩
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今なら、内田先輩が、私に告げてくれた、言葉の意味が分かるよ
*
女子社員のなかでも、特に仲良しなのは、桜子なんだけど
あと一人、たぶん嫌われていたわけじゃないと思うんだ
気にかけていてくれた、ベテランの内田先輩
一回り以上年上だけど、偉ぶったところがなくて
始めは、大人しくて、近寄りがたい人かもって思ってた
でも、非常に判りにくいけど、とても優しい人だって、気が付いた
時々、意味が判らない、悪戯もあったけど…
新人の私が、失敗して落ち込んでいると
メモ用紙の隅っこが、パラパラ漫画(応援団が一人ずつ集まってきて、私を応援するストーリー仕立て)になっていたり
知らないうちに消しゴムが、苗字のスタンプになっていて
誰だろってキョロキョロ、辺りを見渡せば、目が合って
大江戸捜査網・十文字小弥太の「死して屍拾う者なし!」
と書かれたクリアファイルをニヤリッと笑って見せつけられた
あぁっ!杉様♪羨ましく思っていると
マウスパットが、鬼平になってた
もぅ〜素敵!苦手なパソコン操作も、吉右衛門様が、ニコリと笑っていれば、気持ちも軽くなった
酒元部長を避けていた時期、部長と同じエレベーターに乗りたくなくて
先に開いた方に、走り込もうとしたのに、内田先輩が、乗っていて
「あばよ」
と言って、閉ボタンを押され、乗せてもらえなかったり
クリップが一個ずつ連なっていたり
食堂で海老フライ定食を食べていると
隣に座った内田さんが、「あっ!」と大きな声で、入口を振り返っていうから
つられて振り返ると何もない。よそ見をした隙に、海老フライが、一つ消えていた
そのかわり、とりのから揚げが一個と、なめらかプリンがのっていた
「海老…あぁ…」ショックをかくせず、小さく呟くと
炒飯定食を、モグモグ食べる内田さんの口から、海老の尻尾がみえていたり
そんなおちゃめな悪戯が、ある意味うれしくて、楽しみだった
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