過去拍手
□七夕
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「ママッ!」
ついっと差し出した小さな手には、知らない間に白い紙が握られており、期待に瞳を輝かせている
視線の先には、三本の大きな笹が其々バケツに活けられて、スーパーの入り口を賑わせていた
サラサラこ気味良い葉擦れの音と、子供達のはしゃぐ声に目を細める
「わぁ〜 かぁーい!かぁーい 」
近寄り見上げる以蔵の目には、風に揺れる色とりどりの短冊や、折り紙で作られた飾りが、映っている
「そうだね、可愛い飾りが沢山付けてあるね」
ウンウン頷く小さな頭を撫でると、さっきの白い紙を私に差し出した
入り口の横てには長机が用意されていて、皆、短冊に思い思いの願い事記入していた
「そっか〜!以蔵も何か書きたいの?」
ウンウン頷くから、用意されたペンを渡す
他の人の真似事なんだろうけど、真剣にとりくんでいる
ウーン…さっぱり何を書いたか分からないけど…以蔵が満足いったならそれでいいや
以蔵の白い紙が、笹の葉と一緒に風に揺れて、キラキラ光っているみたい
以蔵のお願いって何だろう?まだ、七夕まつりの意味すら分かってないだろうけど、叶うとイイね
*
(昨晩のチビ以蔵の夢の中)
あれ?さっきまで遊んでくれた、お姉ちゃんが居ない
「お姉ちゃーん」
「ん?!どういた小僧……ッ…おまん…!」
黒い変な服を着た男の人が、近寄ってきた
「お姉ちゃん…」
この人知ってる、でも、誰だろう
「お姉ちゃんとは、向こう側にいる娘さんの事か?」
ボクを抱っこしたおじさんが、指差す方をみたら、白い砂がキラキラ光っていて、その向こうに、お姉ちゃんがいた
「お姉ちゃーん」
大きな声で呼んだんだ
お姉ちゃんは白く光る砂の中に入って、ボクに近付こうとするけど、どんどん押し流されて、離れて行くんだ
お姉ちゃんの学校の服は、ビチョビチョにぬれてるのに、まだ渡ろうとしてる
もう止めて!危ないよ!
お姉ちゃんはおじさんに向かって、泣きながら何か叫んでる…
おじさんとお姉ちゃんは、お友達なの?早く助けてあげて!かわいそうだよ
ボクを抱っこするおじさんを見ると
「そうじゃ…おまんに頼みたい事があるき、きいてくれるか?」
ボクは、おじさんがとっても哀しそうな顔をしてるの、分かったよ
ウンウン頷くと
「おまんにしか出来ん事なんじゃ、以蔵…」
おじさんは、綺麗な白い紙を渡して
「この紙に、おまんの願い事を書き、笹に飾るんじゃ…ほいたら、あの娘さんも笑うてくれるき」
ボクはお姉ちゃんを見ると、ずっとずっと離れてるのに、凄く悲しそうに泣いてるのがわかった
分かったよ、何でもするから泣かないで!
「マーマー‼‼」
*
「エッどうしたの?以蔵?怖い夢見たの?」
大っきな声でお姉ちゃんって叫んだら、ママが驚いてて
ママだ!泣いてたお姉ちゃんは、ママだ…
いつもニコニコしてくれるママが…ボクも悲しくなって、お布団に寝転んだまま、わんわん泣いた
そしたらママが大丈夫だよ!ママがついてるからね。何にも怖くないよと言って、お膝の上で抱っこしてくれた
温かい手で、背中をポンポン撫でてくれたら、悲しい気持ちが逃げ出していったよ
ママ、ボクね、おじさんに、教えてもらったんだよ
《大切な人に笑って欲しいのは子供だって同じでしょ?!》
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