過去拍手

□七夕
1ページ/1ページ




「ママッ!」

ついっと差し出した小さな手には、知らない間に白い紙が握られており、期待に瞳を輝かせている

視線の先には、三本の大きな笹が其々バケツに活けられて、スーパーの入り口を賑わせていた

サラサラこ気味良い葉擦れの音と、子供達のはしゃぐ声に目を細める

「わぁ〜 かぁーい!かぁーい 」

近寄り見上げる以蔵の目には、風に揺れる色とりどりの短冊や、折り紙で作られた飾りが、映っている

「そうだね、可愛い飾りが沢山付けてあるね」

ウンウン頷く小さな頭を撫でると、さっきの白い紙を私に差し出した

入り口の横てには長机が用意されていて、皆、短冊に思い思いの願い事記入していた

「そっか〜!以蔵も何か書きたいの?」

ウンウン頷くから、用意されたペンを渡す

他の人の真似事なんだろうけど、真剣にとりくんでいる

ウーン…さっぱり何を書いたか分からないけど…以蔵が満足いったならそれでいいや

以蔵の白い紙が、笹の葉と一緒に風に揺れて、キラキラ光っているみたい

以蔵のお願いって何だろう?まだ、七夕まつりの意味すら分かってないだろうけど、叶うとイイね





(昨晩のチビ以蔵の夢の中)

あれ?さっきまで遊んでくれた、お姉ちゃんが居ない

「お姉ちゃーん」

「ん?!どういた小僧……ッ…おまん…!」

黒い変な服を着た男の人が、近寄ってきた

「お姉ちゃん…」

この人知ってる、でも、誰だろう

「お姉ちゃんとは、向こう側にいる娘さんの事か?」

ボクを抱っこしたおじさんが、指差す方をみたら、白い砂がキラキラ光っていて、その向こうに、お姉ちゃんがいた

「お姉ちゃーん」

大きな声で呼んだんだ

お姉ちゃんは白く光る砂の中に入って、ボクに近付こうとするけど、どんどん押し流されて、離れて行くんだ

お姉ちゃんの学校の服は、ビチョビチョにぬれてるのに、まだ渡ろうとしてる

もう止めて!危ないよ!

お姉ちゃんはおじさんに向かって、泣きながら何か叫んでる…

おじさんとお姉ちゃんは、お友達なの?早く助けてあげて!かわいそうだよ

ボクを抱っこするおじさんを見ると

「そうじゃ…おまんに頼みたい事があるき、きいてくれるか?」

ボクは、おじさんがとっても哀しそうな顔をしてるの、分かったよ

ウンウン頷くと

「おまんにしか出来ん事なんじゃ、以蔵…」

おじさんは、綺麗な白い紙を渡して

「この紙に、おまんの願い事を書き、笹に飾るんじゃ…ほいたら、あの娘さんも笑うてくれるき」

ボクはお姉ちゃんを見ると、ずっとずっと離れてるのに、凄く悲しそうに泣いてるのがわかった

分かったよ、何でもするから泣かないで!

「マーマー‼‼」





「エッどうしたの?以蔵?怖い夢見たの?」

大っきな声でお姉ちゃんって叫んだら、ママが驚いてて

ママだ!泣いてたお姉ちゃんは、ママだ…

いつもニコニコしてくれるママが…ボクも悲しくなって、お布団に寝転んだまま、わんわん泣いた

そしたらママが大丈夫だよ!ママがついてるからね。何にも怖くないよと言って、お膝の上で抱っこしてくれた

温かい手で、背中をポンポン撫でてくれたら、悲しい気持ちが逃げ出していったよ

ママ、ボクね、おじさんに、教えてもらったんだよ


《大切な人に笑って欲しいのは子供だって同じでしょ?!》



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ