過去拍手

□つばめ
1ページ/1ページ



昨夜から降り出した雨。今は細かい粒にかわった。朝よりも少し少し、温かい

会合の無い雨の日は特に、部屋から出て来ない龍馬さん

たまった書状を、一気に片しているのだろうと、慎ちゃんは言う

明るい縁側に座って、お登勢さんに教わった、お針仕事の手を止めて空を見上げた

たぶん、昼過ぎには上がるだろう。はちきんも雨なら形無しだな。と、通りかかった以蔵がボソリと呟いて、去っていく

後姿に、なによ!口を尖らせて、不満をぶつけた

天気予報なんてない時代、皆、雲ゆきや、湿度、経験で天気を予測しているみたい

苦手な針仕事に身が入らないでいると、視界の端に飛びこんできては、直ぐに消えた小さな黒い塊

へ?! 何?! 妖怪?! この時代ならあり得る!

もしかして、まっく■く■すけ? でも、動きが速い!

キョロキョロしてると、波打つ空気の層を掻い潜る様に飛ぶ、小さな鳥が、目の前を横切っていく

アッ!ツバメ! 都会では、見かけないけど、私の家の周りには、田畑や川が有るから、季節になると巣を作りにきてた

ふふ 黒い燕尾服だと思っていたけど・・・

忙しなくあっちこっち飛び回る姿が、誰かを彷彿させる

きっと何処かに巣を作りにきたんだ





〈この辺りなら、大丈夫かのぅ?

去年は見つかってしもうて、散々じゃった

どぉじゃ此処なら安心して、子育て出来るか?〉

〈素敵!雨風がしのげるし、食べ物も豊富ね。

ここなら、きっと見つからないはずよ〉

〈何が有っても、おまんと子は、儂が必ず守る!〉

〈龍馬さん!私、沢山産むわ!〉

〈さぁ、家を作るか〉

〈うん、藁で暖かい寝床を・・・〉





・・・フッ。 藁で暖かい寝床?

縁側で眠りこけてる小娘が、微笑みながら呟いた

こん子の寝顔は、誰にも見せるわけにはイカンき

抱き上げて部屋に運び、床に寝かせた

「・・龍馬さん・・眠る時も、傍にいてね・・」

「っ !!」

な、ななななな!! 小娘は!・・・眠っておる・・

掌で自分の口を覆って、横を向く。顔が熱い

寝言で安心したが、ちくっと残念な気もするのぉ

頬に指を滑らせれば、擽ったそうに微笑った

抑えきれぬ衝動は、額に口付けるだけでは、我慢できそうに無い

細い肩に手を伸ばせば・・・

「そこまでだ龍馬。寝込みを襲うとは・・・恥を知れ!」

「っ! 武市・・・」



龍馬さんと、武市さんが、どうして私の部屋で何時もの喧嘩してるのかしら

慎ちゃんが、こっちこっちと手招きしてる方へ、避難する

「姉さんの無防備さには、際限が無いっすね・・・」

そう言って、ますます訳が分からず?顔の私に頬を染めて苦笑している



実家の玄関ポーチの小さな屋根の内側に、毎年巣作りするツバメの夫婦

同じツバメかどうかなんて分からないけど

来てくれるのを、とても楽しみにしてたんだ

うちに来てくれるツバメの夫婦は

巣で卵を温める一羽の傍に、もう一羽も居て夜を迎え、

雛がかえれば、一羽が巣の縁にとまり、もう一羽もすぐ傍で夜を過ごす

昼間はひたすら、雛のために二羽で餌を運んでいた

縁側でに飛んで来たツバメをみて、ツバメの夫婦のようになりたいと、羨ましく見上げていたのを、思い出した

いつかそんな日がくると良いのにと、黒い着物の袖を腕まくり、まだ言い合いをする人にチラリと視線を向ければ

私に気付いてニシシと微笑んでくれた




《どのような時も共に有りたい》


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ