過去拍手
□つばめ
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昨夜から降り出した雨。今は細かい粒にかわった。朝よりも少し少し、温かい
会合の無い雨の日は特に、部屋から出て来ない龍馬さん
たまった書状を、一気に片しているのだろうと、慎ちゃんは言う
明るい縁側に座って、お登勢さんに教わった、お針仕事の手を止めて空を見上げた
たぶん、昼過ぎには上がるだろう。はちきんも雨なら形無しだな。と、通りかかった以蔵がボソリと呟いて、去っていく
後姿に、なによ!口を尖らせて、不満をぶつけた
天気予報なんてない時代、皆、雲ゆきや、湿度、経験で天気を予測しているみたい
苦手な針仕事に身が入らないでいると、視界の端に飛びこんできては、直ぐに消えた小さな黒い塊
へ?! 何?! 妖怪?! この時代ならあり得る!
もしかして、まっく■く■すけ? でも、動きが速い!
キョロキョロしてると、波打つ空気の層を掻い潜る様に飛ぶ、小さな鳥が、目の前を横切っていく
アッ!ツバメ! 都会では、見かけないけど、私の家の周りには、田畑や川が有るから、季節になると巣を作りにきてた
ふふ 黒い燕尾服だと思っていたけど・・・
忙しなくあっちこっち飛び回る姿が、誰かを彷彿させる
きっと何処かに巣を作りにきたんだ
*
〈この辺りなら、大丈夫かのぅ?
去年は見つかってしもうて、散々じゃった
どぉじゃ此処なら安心して、子育て出来るか?〉
〈素敵!雨風がしのげるし、食べ物も豊富ね。
ここなら、きっと見つからないはずよ〉
〈何が有っても、おまんと子は、儂が必ず守る!〉
〈龍馬さん!私、沢山産むわ!〉
〈さぁ、家を作るか〉
〈うん、藁で暖かい寝床を・・・〉
*
・・・フッ。 藁で暖かい寝床?
縁側で眠りこけてる小娘が、微笑みながら呟いた
こん子の寝顔は、誰にも見せるわけにはイカンき
抱き上げて部屋に運び、床に寝かせた
「・・龍馬さん・・眠る時も、傍にいてね・・」
「っ !!」
な、ななななな!! 小娘は!・・・眠っておる・・
掌で自分の口を覆って、横を向く。顔が熱い
寝言で安心したが、ちくっと残念な気もするのぉ
頬に指を滑らせれば、擽ったそうに微笑った
抑えきれぬ衝動は、額に口付けるだけでは、我慢できそうに無い
細い肩に手を伸ばせば・・・
「そこまでだ龍馬。寝込みを襲うとは・・・恥を知れ!」
「っ! 武市・・・」
龍馬さんと、武市さんが、どうして私の部屋で何時もの喧嘩してるのかしら
慎ちゃんが、こっちこっちと手招きしてる方へ、避難する
「姉さんの無防備さには、際限が無いっすね・・・」
そう言って、ますます訳が分からず?顔の私に頬を染めて苦笑している
実家の玄関ポーチの小さな屋根の内側に、毎年巣作りするツバメの夫婦
同じツバメかどうかなんて分からないけど
来てくれるのを、とても楽しみにしてたんだ
うちに来てくれるツバメの夫婦は
巣で卵を温める一羽の傍に、もう一羽も居て夜を迎え、
雛がかえれば、一羽が巣の縁にとまり、もう一羽もすぐ傍で夜を過ごす
昼間はひたすら、雛のために二羽で餌を運んでいた
縁側でに飛んで来たツバメをみて、ツバメの夫婦のようになりたいと、羨ましく見上げていたのを、思い出した
いつかそんな日がくると良いのにと、黒い着物の袖を腕まくり、まだ言い合いをする人にチラリと視線を向ければ
私に気付いてニシシと微笑んでくれた
《どのような時も共に有りたい》
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