BOOK1《後編》
□三十七
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「会社の届けには、親の看病と、自身の体調不良が理由
それにしては、準備が良すぎて、腑に落ちなかったんだ
それで北山さんに確かめたんだよ
母親が、病のために余命幾許もないらしい
それと、父親の工場の経営悪化
本人も、かなり体調崩しているらしい。北山さんでさえ、会えないし、連絡とれなくて心配だって
男名無しちゃん、彼女の事情知ってて別れたの?」
眉間にしわを刻んで困惑する男名無しちゃんに、探るように訪ねた
「まさか!そんな訳ないだろう!俺は女名無しにプロポーズしたんだ!」
「北山さん、女姓無しさんが男名無しちゃんと綾子さんの婚約の話、早くから知ってたみたいだって言ってたよ」
男名無しちゃんが、瞳を揺らして見開き、訝しむ
「こんなパーティーに、綾子さんと来て、本気で婚約するんだ
これで、身を退いた女姓無しさんも浮かばれるね
沖田専務の筋書き通りに、事が運んだみたいで、笑いがおさまらないだろうね、綾子さんと沖田専務」
眉間のしわを、より深くさせた男名無しちゃんは合点がいったのだろう
グラスは手元からすり抜けて、足元に硝子の破片がそこかしこに散乱してパーティ会場からの光に反射して、彼女の涙のように煌いている
「綾子が…?あいつが、沖田と組んでるって事か?!」
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