BOOK1《後編》
□三十六
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昼前に帰宅した姉ちゃんは、2階の自室に駆け上がったきり、夕方まで降りて来なかった
「遅くなったけど、母さんの所、行って来る」
「俺、行ってきたよ。母さんも『たまには女名無しも、ゆっくりしなさい』ってさ
高須先生には、用事で来れなくなったって言っといたから」
姉ちゃんが、グニャリと体の力が抜けたように、膝をつきヘタリこんだかと思うと、顔を床に俯せて、泣き出した
「ね、姉ちゃんどうした?唇、切れてるじゃないか!誰にやられた?」
首を左右に振って、ただ泣くだけで、何も言わなかった
抱き起こすと、微かなシャンプーの香りに、首筋の紅いあざに疑問が湧きおこる
俺にも言えない事で、悩んでいるのかもしれない
こんなに取り乱して泣く姉ちゃんは、初めてで、何か有るに違いない
父さんには、心配かけられない。母さんや、会社の事もあるから…
姉ちゃんに仕事、やめさせてしまった事を、申し訳無く思っているみたいだし
このうえ、姉ちゃんの様子がおかしいなんて、いえない
『姉ちゃんは、ちょっと風邪っぽいから寝かせた』と、父さんには言って
晩飯は俺が、野菜炒めを作って、父さんが食器を洗った
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