BOOK1短編
□不思議先輩
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その内田さんが、事情があって、退職される事になって
凄く寂しくて、帰宅する内田さんを社外まで追いかけて、お別れの品を渡し、今までのお礼を言った
少し寂しげに微笑んで
「貴女はこんなにも優しい女性なのに
信じられないような体験をしたのね…
辛かったでしょうに」
言葉を一旦止めて、目を閉じ顎に人差し指を添えて、しばらく押し黙ってしまった
内田さん…もしかして、知っている?
私、誰にも話した事なんて無い…
再び、私を見詰める瞳は、優しいけれど、切なそうに潤んでいて
「普段はこんな忠告しないのだけれど…
いい?!覚えておいて。
この先、貴女に降り懸かるのは、良いことばかりとは言えないけど…
自棄になっては駄目よ!貴女の愛する人を、愛し続けて…
私に視えるのはここまでなの。元気で…さようなら」
私のデスクの引き出しには、社員旅行で酒元部長が、仮装した時に写した
二人並んだ写真が、封筒に入れられて置かれていた
これって…内田さんがくれたんだよね
雅に写してもらったものは、何故か全てデータが飛んでしまったとかで、一枚もなかったのに…
内田さん「私に視えるのは」って言った…
*
浴室から数を読む主人と息子の楽しげな声を、聞きながら
ソファーでお腹を撫でながら、優しい瞳を私に向けてくれた、彼を思い出す
過去の、そして予定されていた未来に、私の隣で笑っていたであろう彼を