BOOK1《前編》
□十七
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(酒元Side 1)
名無しの軆から力が抜けるのを感じて、唇を離す
トロンとした瞳の名無しは、名残惜しそうに俺を見上げて、煽っているようにしか思えない
「リョウマは名無しにどうなって欲しいって言ったか覚えてるよな?」
押し倒したい気持ちを、全身全霊でおしとどめる
「生きて、幸せになって欲しいって…」
「さっきのキス嫌だったか?」
頬を紅く染めた名無しが、俯きながらフルフルと頭を左右にふる
「惚れた女には幸せになって欲しい
俺がリョウマの立場であっても、同じ事を思うよ
本当は自分が名無しを幸せにしたかったはずだ」
『そう…おまんの傍らで、いつも笑っていたかった』
俺の中の誰かが、呟く
「俺だって名無しを幸せにしたいって思ってる
名無しが笑っていられるなら、なんだってしてやりたいと思う
だから罪悪感なんてもたなくて良いんだ
俺は、名無しが俺を受け入れようとしてるのが、信じられないほど嬉しい」
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