BOOK1《前編》
□十三
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(酒元side)
出先から戻ると、彼女は珍しく、定時に帰宅したようだ
少しでも顔を見れたら、声を聞けたらと、思っていたのだが…
居ないと分かると、疲れが増。イマイチやる気が出ない
どうなってんだ俺…彼女が帰宅しただけ、だというのに
気分転換にコーヒーでも買うか…
自販機から取り出し、一口飲んだ
社員旅行前よりも、状況は悪化しているように、思われる…
姓無しさんは許してくれたけど、セクハラ上司どころか、犯罪…
いつまで、悶々としてるんだか。俺らしくもない
彼女が相手だと、調子が狂うんだ
缶コーヒーの縁を持ったまま、前屈みに休憩室の椅子腰掛け
溜息をつく俺の前を
北山さんが、携帯片手に横切っていく
「あっ裕也〜。今から向かう。うん。先に名無しに店で待っててもらってる
えっ?!大丈夫だって。名無しには、話して無いもん
本当に良い奴なんでしょうね?
私の名無しに変な男紹介したら、赦さないからね!
うん。じゃぁ後で」
な…なんだって!ちょっ…男紹介するって…
しかも、俺にチラッと視線を投げた癖に、知らんぷりで立ち去ろうとしている
北山さんの肩を、掴もうとした手は宙をきって、後ろから腕を引かれた
「明後日のA社の件で、使う資料なんだけど
もう少し手直しして、詰めておきたいのよ」
山崎が、引き摺るようにして俺を、席に付かせ、資料の山を押し付けた
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