他ノ噺

□竜になった子供たち
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竜になった子供たち


 幻想を謳った賢人は夢に囚われた。
 美しいウロコ、広がる両翼、揺れる宝眼、哮るその姿。
 けれど曇った空に雄々しい影はなく。
 しかたがないので賢人は、今日もインクで手を汚す。


 幻想を纏った執念は夢に近づいた。
 石と化したモノ、転がる水晶、散らばる資料、滴るその血。
 けれど濁った部屋に清い心なく。
 しかたがないので賢人は、今日も紙に文字を綴る。


 幻想を辿った両脚は夢に追いついた。
 清い心、長ける生命、澄んだ瞳、紡ぐ幼唄。
 けれど血濡れの部屋に尊ぶ思いなく。
 しかたがない。と賢人は、赤いインクで線を繋ぐ。


 幻想を求めた願いは夢に殺された。
 美しいウロコ、広がる両翼、揺れる宝眼、哮るその姿。
 けれど青空を翔る姿はすでになく。
 部屋に残るは黒い血と、濁った瞳の人ただ一人。


“カズシ”
“トーゴ”
“トーロー”


 一人寂しい三兄弟。
 影は一つだ三つ影。
 鳴き声二つ音無し一つ。
 光ない目は幾つか二つか一対眼(まなこ)。

 嗚呼。こんな咆哮じゃあ、ひそひそ話もできないね。


 104
 105
 106……、

 104
 105
 106……、

 104
 105
 106――。





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