頂きもの

□魚座。
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朝起きて、ご飯を食べること。

今まで、怠った事は一度としてない。

『彼女』に会いに行く為に、

毎朝早起きして支度をするのだ。

そして、支度が終わったので、

僕は『いつもの場所』に出掛けた。

此処に来るのは未だに怖い。と、

視界に広がる一面の青に、そう思った。

でも、此処に来る理由がある。

その為に、僕は此処にいるのだから。

「ツバメ…?」

鈴を転がしたような声。

間違いなく、『彼女』の声だ。

「おはよう。セイ」

「やっぱり、ツバメだ…!」

彼女には名前がない。

それは、彼女が人間ではないから。

足があるべき所には、

魚のようなヒレがついている。

つまり、彼女は人魚なのだ。

僕が彼女をセイと呼んだのは、

単純に、セイレーンを略しただけだ。

「ツバメ、今日は何を持ってるの?」

「あぁ、これは手紙だよ」

「てがみ?」

どうやら、人魚は手紙を書かないらしい。

まぁ、よく考えれば、

水の中で手紙なんて書けるはずないが。

「文字を書いて、遠くの人と話すんだよ」

「どうやって?」

「これを遠くの人に届ける仕事があるんだ。その仕事の人が届けてくれるから、」

遠くの人と話が出来る、と僕は言った。
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