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□戯れという名の真実
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部室には、二つの影があった。
赤を宿した瞳と、水色を宿した瞳がぶつかり合う。
視線を外したのは、どちらが先か。
赤を纏った王者が、薄い水色の髪へと手を伸ばし、空色を纏ったその人の頬を優しく包み込んだ。
「愛しているよ、いつまでもお前だけを。だから…俺の傍を離れるな」
普段で考えられないほど、少し弱々しい声で赤司は黒子に言う。
そんな王者の珍しい姿を見て、黒子は小さく微笑んだ。
「何言ってるんですか、赤司くん。…僕は君の傍を離れたりしません。ずっと、君と一緒にいます」
「…すまない。俺らしくないことを言ってしまったようだ。…ありがとう、黒子」
「こちらこそ。……大好きですよ、赤司くん」
「黒子……」
「赤司くん……」
二人は顔を見合わせて微笑み合い、互いの唇は次第に近付いていく。
二つの影が、今まさに一つになろうとしたその時──
「お、お前ら何やってんだっ!」
青い髪の男がついにブチギレた。
言わずもがな、青い髪の男といえば青峰のことである。
実は青峰は、赤司と黒子が見つめ合っているときも、愛を囁き合っているときも、部室にいた。ずっといた。
空気を読んで──というか、赤司からの禍々しい邪魔をするなオーラを感じて──黙っていたのだ。
「何、って…見て分からないんですか青峰くん」
「わっかんねぇよ!つーかお前ら何なんだよまじ付き合ってんのか?!」
黒子に呆れたような顔で見られた青峰は、勢いに任せて思わず見当違いなことを口にしてしまう。
青峰とて、黒子と赤司が付き合ってなどいないことは知っている。
だが、二人が余りにも甘い雰囲気を醸し出しながら吐きそうなほど甘ったるい言葉を囁き合っているのだ。そのやり取りを間近で見せられた青峰がもしかして、と勘ぐるのも無理もないことだろう。
「失礼な。付き合ってなんかいません。僕らはただ、しりとりをしていただけですよ…ね?赤司くん」
「…あぁ、そうだ。愛の言葉でしりとりをしてみただけだ。妙な勘ぐりを入れるな」
「…愛の言葉でしりとり……?」
何だ、それは。
さすがに予想をしていなかった二人の答えに、青峰はただぽかんと、口を大きく開けて呆けた。
その間抜けな顔もさながら、青峰の口から『愛』という言葉が出てきた時点でもう爆笑ものである。
実際、黒子は少しではあるがぷるぷると震えていたし、赤司は青峰から完全に目をそらしていた。
「意外にいけましたね」
「そうだね」
完全に笑いがおさまった二人はそんな青峰をお構いなしにスルーして話を進める。
青峰は未だに状況が理解出来ずに口を開けたまま呆けているわけだが、ただ一つ目の前の確信犯どもに言えるとするならば。
「紛らわしいことすんなよ…!」
焦っていた自分が、ひたすらに馬鹿みたいではないか。付き合ってないことは知ってる。でも、もし万が一俺の知らないところでそうなっていたなら、俺はとんだお邪魔虫とかいうやつで、そういうことは事前に言っておけよ。とか考えた自分が本当の馬鹿みたいで。
青峰の怒りは分からなくもない。だが実際、馬鹿なのは間違いないのだから、至極当然、青峰の怒りだって、赤司と黒子は鼻で笑うだけである。哀れ、青峰。
またも華麗に青峰をスルーする二人は、さして面白くもなさそうに話を進め始めた。
「次は誰で遊ぼうか?黒子」
「そうですねぇー…青峰くんは終わりましたし、紫原くんは反応が薄そうですし…」
「じゃあ、黄瀬か桃井あたりか?」
「桃井さんは女性ですし、やめておきましょう」
「ふむ、なら黄瀬だな。じゃあ明日…」
「おいおい、あんま酷なことしてやんなよ」
お前のこと大大大好きなうざってぇ黄瀬がそれなりにかわいそうだろ、と黒子の方を見ながら言えば、何故か目を見開いて驚いている。
「君にも良心なんてものがあったんですね…」
青峰の黄瀬に対する愛情の欠片もない台詞に対し、驚きです、と黒子が付け足す。
ってまぁそんな顔されたら驚いてんだなって分かるけど、失礼だろーが、おい。俺のことどんだけひどい奴だと思ってんだよ。
言いかけそうになったそんなツッコミは黒子の隣にいる赤い人を見てのみ込んだ。
そんな瞳孔開かなくても、余計なことは言わねーよ。
だから、その瞳をやめてください赤司さん。
「じゃあ、黒子」
「はい、赤司くん」
「明日、黄瀬を殺るよ」
「はい、赤司くん」
赤司さん、「やる」の字が違うんじゃ…と思っても言わない言わない。
「いいや、青峰。合ってるよ」
ほら、言わなくてもお見通しなんだし。つーか、だったらもう俺しゃべんなくてもいいんじゃねぇかな、しゃべんなくてもいいか、もう…よし、俺絶対しゃべんねぇからなと頑なに心に誓った青峰。
……が、しかし。
「付き合ってはいないが、愛しているのは本当なんだから…なあ、黒子」
「はい、赤司くん(……あ、さりげなく緑間くんの存在を消してしまってました…ま、いいか)」
「(俺はもうしゃべんねぇ絶対しゃべんねぇからなしゃべんねぇぞ…)って、はぁああ??!!」
そんな誓いさえも粉々に砕く発言をするのが、やはり我らが魔王…いや、部長なのである。
愛があるから愛のしりとりをするのであって、愛情の欠片もない相手としりとりをすること自体虫唾が走るよ──そう言って、分かりにくく少しだけ微笑んでいた我らが魔王が、少しだけ気持ち悪くて引いたのは、青峰が墓まで持っていくレベルの秘密である。
おわり。
緑間はがちで忘れてたとか、そんなことないことはない。