Long

□帝光中キセキ大事件7
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「じゃー、さつき切るぞ」


これ以上、桃井からの黒子の周辺に関する報告とやらはないだろうと思い、青峰は電話を終わらせようとした、が。


「…だ─いちゃん?」

「………」

「まさか、私との会話を、このまま終わらせようなんて思ってないよね?」


──どうやら甘かったようだ。


ね?なんて可愛らしい感じを装って、静かな怒りを秘めている幼なじみに冷や汗が止まらない。


黒子に執着する幼なじみは簡単には引き下がってはくれないなんて分かってはいたが、今回はこれ以上関わらないでほしかった。


正直言って、青峰の、男に対する怒りはもうだいぶ減っていた。

もちろん、黒子に手紙を渡した男など許したくはないし許せるはずもないが、上には上がいるとはこういうことかと──つまり、豹変した黄瀬や桃井に疲れてしまったのである。

だから、これ以上は厄介な幼なじみには引っ込んでもらって、冷静になった自分たちで解決すればいいかと思ったのだ。


まあ、そんなことは絶対に無理だと、心のどこかで思ってはいたけれど。

何故なら、冷静なヤツなど、今は自分しかいないということを、青峰は理解しているのである。


「うふふ…だいちゃん、今部室かなぁ?(部室だよな、絶対に部室にいるよな?嘘ついたら…どうなるか分かってるよな?いくら大ちゃんであろうとも、ヤツと同じめに合わせることに…)」



分かった、分かったから。

お前の副音声はばっちり聞こえるし、わざわざそんな命知らずな嘘もつかねぇからお願いだから早くお前との電話を切らせてくれ!!

なんていう青峰の叫びは、桃井に届くはずもなく。


「おぉ、部室にいる。他のやつらもいるぜ。」


平静を装えた自分自身を褒めてやりたい気分になった。

正直に、嘘をつかずに答えたのだ。


これでもういいだろうと、青峰が口を開きかけたその時。


「ふふ〜、だよね〜」


妙に間延びした返答が帰ってきて、青峰は変な心持ちになる。


一見穏やかそうな言葉遣いだが、電話口の向こう側から聞こえるミシミシという音はさすがに誤魔化せない…というか、何を破壊しようとしているのだろうか、桃色のさつきちゃんは。


「お、おう。」


動揺してはいけない、平常心を保て、そう自分に言い聞かせながらも微妙な返事をした青峰を待ち構えていたのは。


「ふふ〜……よしっ」


妙に元気な、さつきちゃんのかけ声だった。


「………(嫌な予感がする…)」


幼なじみに対する嫌な予感はよく当たるのだ。十中八九、青峰が巻き込まれることは間違いない。

その呪いのような運命から青峰が逃れられたことは、一度もないのだ。


今回ももちろん例外なく。


「今から行くから、そこから一歩も動かないでねっ!!」

「…………あ?」


嫌な予感は当たった。

何を言っているんだこの女は。来なくていい。心底来なくていい。寧ろ絶対に来るな。

という心の声を、もちろん本人に言えるわけもなく。


「だいちゃん?返事は?」


「はい!」


つい条件反射で潔い返事をした自分を殴りつけてやりたくなるぐらいには、現在の青峰のライフポイントは少なくなりつつあった。


どうやら青峰の幼なじみは、紫原のようにマイペースで、緑間のように頭がキレて、黄瀬のようにヤンデレで、赤司のように支配者的なオーラを持っている、とてつもなく厄介なヤツなんだと、改めて思わざるを得なかった。



「…大輝、桃井はなんて?」


空気を読んでいたのか、電話中は黙って鋏をシャキンシャキンやっていた赤司が、青峰に更なる電話の内容を求めてくる、が。


「あー……なんか、今から来るって」


テツに関する情報じゃなくて、さつきがこっちに来るってことを話してたんだよ。


その青峰の言葉に、やはりな、っていう赤司がやっぱり怖いと思った自分は間違いじゃないと、青峰は確信した。

やはりな、って、何で分かってんだよ。


そんなツッコミも、最早不要である。


──コンコン


青峰が一人ため息をついていると、部室のドアが外からノックされる音が聞こえた。

このタイミングだと…どう考えても桃井しかいないだろう。


「げぇ、まさかもう来たのか?」


そんな結論に達した青峰が、そう呟いてドアを開けると、そこにいたのは……


「青峰くん…早いですね」


目に入るのは、穏やかな印象を与える空色の髪と、それに違わない透き通るような瞳。


「って、…テツ?!」


何と、今まさに話題の中心にいる、黒子テツヤだった。

驚いた青峰が思わず後ろを振り返ると、緑間は座り込んで目を閉じていて、紫原は座ってお菓子を食べていて、黄瀬は座って雑誌を読んでいて、赤司は座って作戦を練っているかのようにペンと紙を持っていた。



───いつの間に。


首を傾げたまま部室の前に佇む黒子にも構わずに、青峰は一人、お前らまじきもちわりぃよ…と呟くのだった。
 

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