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□帝光中キセキ大事件5
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緑間が黄瀬に対して恐怖を感じ始めたその頃、青峰は桃井から、黒子に手紙を渡した愚かな男について話していた。
赤司が事細かく伝えてきた男の特徴を、余すところなく桃井に伝える。
青峰が話し終えると、電話口から桃井が考えているような唸った声が聞こえた。
『んー…そんな人いたかなぁ?』
「赤司が言うんだから間違いねぇだろ。」
桃井と電話をしながら、横目で赤司を見ると、まるで、僕に間違いがあるわけないだろう?と言わんばかりの顔で鋏を開いたり閉じたりしている。
─シャキンシャキン
妙に音が鋭いのは、気のせいではないだろう。
つーか、怖えーよ!
「さつきぃ!早く思い出せ!」
赤司から感じる威圧感と、頼みの綱である桃井から何の情報もないなんてことがあるわけがないという絶対的な勘から、青峰は声を苛つかせる。
『もー…ちょっと大ちゃん、何イライラしてるの?ていうか、その人がどうかしたの?凄く、怒ってるみたいだけど…』
青峰の異変に気付いた桃井は、少し困ったように尋ねた。
青峰はまだ、黒子が男から手紙を貰ったことを、桃井に伝えていない。
これから予想される幼なじみの取り乱し様を頭の隅で思い描きながら、青峰は、ゆっくり息を吸い込む。
そして、幼なじみを惑わすであろう決定的な言葉を吐き出した。
「テツが、その男から手紙を貰ったらしい。」
しばらくの沈黙が、部室を襲った。
残念ながら、黄瀬が呟く呪いの言葉は微かに聞こえくるのだが。
桃井からの応答はなかった。
しばらくすると、桃井と繋がっているこの電子機器の向こう側から、小さく笑う声が聞こえた。
『あはは…………ねぇ、青峰くん。ちょっと聞こえなかったみたいだから、もう一回言ってくれないかな?』
うふふ、と控えめに笑い出す桃井に、青峰は背筋に冷たい汗が流れたのに気付いた。
いくら幼なじみである青峰であっても、恐怖を感じないわけではない。
緑間が、黄瀬の黒子に対する執着心に恐怖を感じたのと同様…いや、もしくはそれ以上に、青峰は桃井がどれほどの執着心を黒子に抱いているか、どれほど黒子のことが好きなのかは、嫌というほど知っている。
これは、ヤバい。
「だから、テツに手紙を渡した男がいるらしいって…」
『あぁ、そう。』
「落ち着け、さつき!……って、は?」
(あぁ、そうって……え?)
青峰が驚くのも無理はなかった。
桃井の返事が、至極簡単なものであったからだ。強いていうなら、返事が適当過ぎないか、と、青峰は予想だにしない幼なじみの返答に焦る。
もっと、喚いたり怒ったり怒鳴り散らしたりとか、するかと思ったが…
(そんなにテツのこと、好きじゃねぇってことか?)
青峰がその考えが全くもって見当違いであったと気付くのは、それから約5秒後のことである。