その他

□確かな日々
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昔から、妖怪と言われる類のものを見ることができた。

他の人にとっては異質だけど、

俺にとっては当たり前すぎたことで。

それが変だと気付いたのは、

親戚をたらい回しにさせられていた頃だ。




…俺がニャンコ先生と出会ったのは、偶然のことと言えるだろう。

俺が妖を見ることが出来るのも、たまたまの話で。


出会いは必然、なんて言葉をよく耳にする。
その言葉を、信じてはいないけれど。

信じてみたいと思えるほどに、大切なものが出来てしまった。




例えば、ニャンコ先生と俺が出会ったあの過去も。

つまらないことでケンカをしている今も。

目の前にある、この光景も。



ニャンコ先生にとっては、ほんの一瞬にしか過ぎないことを、俺は知っている。



ニャンコ先生は…

過ぎ去っていく時の中で、いつか。


俺のことも忘れてしまうのだろうか。


俺と歩いたこの道も。

一緒にいたことも。


俺と過ごした日々も、全部。


きっと、ニャンコ先生が俺より先に死ぬことはない。

いつだって、先生は見送る側だったはずだ。
だから今こうして、俺の隣にいる。


でも、それは。
見送る側であり続けることは、
ひどく寂しいことなのではないだろうか。


先生に、聞いたことがある。

「ニャンコ先生は…寂しいと感じたことはあるか?」

「……忘れてしまったよ、そんな事。」


先生は、ちゃんとは答えてくれなかったけれど、
俺はそれで良かった。

なんとなく、分かってしまったから。


別れが、寂しくないわけがない。

出会いには必ず別れがあって。
そして、いつだって別れは突然だ。
…もし俺が死んで、ニャンコ先生を一人にしてしまったら。

ニャンコ先生は、悲しんでくれるのだろうか。

それとも、友人帳が手に入ることに喜ぶのだろうか。


もし、



もし、ニャンコ先生が俺のことを忘れてしまったとしても。

先生と確かな日々を歩んだことは、変えようのない事実だ。


だから、

「どうした、夏目?」

今、目の前にあるこの景色も。


愛しくて仕方ないんだ。

「先生…」

だから。

だから、どうか。

「なんだ、気味の悪い。さっさと言わんか。」

「………いや、何でもないよ。…バカニャンコ。」
「何っ!!」


俺が死ぬその時まで、共に歩もう。

「ごめんごめん、先生。冗談だから。」

先生は「嫌だ」と言うかもしれないけれど。

「ふん、夏目のくせに生意気な。」

「何だよ、夏目のくせにって!」


俺はこの日々を、気に入っているから。


(知ってるか?先生。)

(…む。……何をだ?)

(別れが来ることを知っているから、この日々を愛しいと思えるんだ。)

(……馬鹿め。)

(馬鹿でいいさ。…それでも先生は、一緒にいてくれるんだろう?)

(あぁ…お前が死ぬ、その時までな。)



…ありがとうな、先生。




【END】
 

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