小さな物語

□マジメちゃん
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僕のクラスにはすごくマジメな委員長がいる。

一君といい勝負な彼女。

委員長兼風紀委員 

雪ちゃんはいつも胸元まである黒髪をなびかせてさっそうと歩いている。

ほんとは少し天パの髪を毎朝早めに起きて念入りにストレートにセットしている。

僕は天パな髪も好きなんだけどな

雪ちゃんはメガネをかけてるけど、学校では自分には似合わないからってかけていない。

でも、運が良ければ授業中にメガネをかけているのを見れたりする。

僕的には授業を真剣に受けてるときの雪ちゃんの顔が好きなんだよな

あと、雪ちゃんは「沖田君! 沖田君!」

ん?

目の前には噂の雪ちゃん。

「おはよう」

目覚めて一番最初に雪ちゃんの顔が見れるなんて 気分がいい。

「?・・沖田くん、 何言ってるの。 今は放課後でもう下校時刻だよ。」

呆れたように笑いながら眉を八の字にして困った顔をする。

僕の好きな表情だ。

「じゃあ、一緒に帰ろうよ。」


雪ちゃんは少し目を開けて驚いていたけど、すぐに微笑んで唇を薄く開けた。

「いいわよ。」

雪ちゃんはくるりと背を向け、僕の右斜め前にある自分の席に行った。

「いつも気ままな沖田君の事だから、このお誘いを断ったらもう次はない気がするわ。」

カバンを肩に担ぎ、優しく振り返った雪ちゃんに夕日が当たり、儚く見えた。


今にも消えてなくなってしまいそうなほどきれいだった。




他愛もない話をしながら学校から出る。

僕の隣で嬉しそうに笑う雪ちゃんを見ていると

ずっとこの幸せな時間が続けばいいのにと想う。

この気持ちに気付いたのは少し前。

「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」

僕の視線に気づいたのか、自分の顔をペタペタと触っている。

そんな雪ちゃんを見ていると、僕のいじわるな心が動きだす。

「うん。 ゴミがついてるよ。 取ってあげるからじっとしてて。」

「うん。」

素直に従う雪ちゃんの顔に僕の顔を近づける。

鼻が付くか付かないかの距離だ。

「っ?! お、きた君・・ち、ちかぃ」

恥ずかしくて真っ赤になった顔を隠そうと俯く雪ちゃんの顔を上に向かせる。

「だめ。こっち向いてくれないと取れないよ。」

さっきよりも顔を近づける。 唇が触れそうな距離に鼓動が速くなる。

見据えた目はいつにもまして少し潤んでいて、熟れたリンゴみたいな真っ赤な顔。

雪ちゃんに触れている手から熱が伝わってきて、見ているだけなのにこっちまで熱くなってきた。

「ん〜〜〜〜〜〜っ!!」

近すぎる距離に我慢できなくなったのか、声にならない声をあげて目をぎゅっと閉じる。

僕の手をどかそうとしているけどこんな弱い力じゃびくともしない。

諦めたのか、雪ちゃんは顔を恥ずかしそうに歪めて小さな声をあげた。

「・・・もぅ、  とれた・・?」

ヤバい。  破壊力高すぎ。

今度は僕が顔を隠す番、 赤くなっているであろう顔を隠すために背を向ける。 

すごく恥ずかしい。

「?・・・どうしたの、 ゴミとれたの?」

状況が理解できていない雪ちゃんは後ろで声をあげている。

頭の中でさっきの雪ちゃんの顔が浮かんでくる。

それと同時に(ウブな雪ちゃんは僕だけじゃなく他の男にもさっきの顔を見せているんじゃないか)という不安がよぎる。

「うん。 とれたよ。」

自分でもびっくりするほど冷たい声だった。

「っ、・・・ありがと」

背中越しに雪ちゃんが肩を震わせたのがわかった。

怖がらせたかったわけじゃない、 怯えさせたかったわけじゃない。


無言の中、後ろから雪ちゃんの歩く音が聞こえる。

もうすぐ別れ道、 あと少しで雪ちゃんと離れなければならない。

このままで別れたくない。 でも言葉を発したとこで、また怖がらせてしまうかもしれない。

どうすることもできないまま、とうとう目の前には別れ道・・・

足を止める事もできないまま歩く。

「っ!」

服の裾が後ろに弱く引っ張られる。 

「沖田君。 ごめん 私が何かしたのよね。  謝ってどうにかなるか分らないけど、沖田君と話せなくなるのはやだな・・。」
  
悲しそうに顔を歪ませる雪ちゃんを抱きしめたい衝動を必死に抑える

「雪ちゃんは、僕以外の前でもさっきみたいに赤くなったりするの?」

冷たい声にならないように慎重に言葉を紡ぐ

雪ちゃんはぱっと顔を上げ、僕の意外な言葉に目を見開いた。

そのせいで雪ちゃんの目に溜めていた涙が一粒零れ落ちた

「そんなことない。 あんなにドキドキしたのは初めてだったし。」

雪ちゃんの「初めて」と言う言葉に嬉しくなった。

「僕は雪ちゃんの事が好きだよ」

少しかがんで雪ちゃんの涙を優しく拭う。

また見開かれる目が愛しく思えて笑ってしまった。

「今日は驚いてばかりだね。」

「・・・ぅ、うん。」

勢いよく下を向いたと思ったら、耳が真っ赤だ。

?  今のはそんなに恥ずかしい事言ってないし、顔も近くない。

「わ、 たしも・・・好き。」

顔を赤くしながら様子を窺うように僕の顔を見る。

「っ・・・・・・!」

僕にも熱が移ってきた。      僕もまだまだウブなのかな・・・。

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