くろのぎんが

□てっぺん
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恋に落ちたのはほんの一瞬だった。
そう、ボールがゴールになんの躊躇いもなく吸い込まれる時の様に…。


本当の本当に一瞬だった


あたしの前で力強くダンクを決める彼。…それまでは存在自体を知らなかった彼。そんな彼が今じゃあたしの生活の中心にいるのだ。もっと早く出会いたかった……何度も何度もそう思った。そうすれば彼の側にいれた。彼の力になれたかもしれない。よくそんな事を考えた。


…でも過去を悔やんでも仕方がない


これからの“未来”の方があたしには大事。あたしは未来を真っ直ぐ進む事にしたのだ。どんな楽しい未来が待っていても…どんな辛い未来が待っていても…。



「おい、部活行くぞ」
「…え…あ…待って!」
彼の大きな大きな背を追う。とてもとても強そうな彼の横に並ぶ……凄く凄く頼もしい彼の横顔を見上げる。赤い髪の毛が彼の心情をそのまま表しているかの様に静かに燃えていた。
「…なんだよ」
仏頂面な彼はあたしの視線に気付く。強い意志を持つ目と目がぶつかり合う。


…愛おしい


どんな言葉でも正確に言い表せないこの感情。表せないから強くなりたい…わからないからもっと彼の側にいたい。わからないから触れたい。わからないから知りたい。
「えへへ。なんでもない!」
そんなもどかしさをも飲み込むあたしに、前を向く彼。その凛々しい横顔にあたしの胸の鼓動は止まるところを知らずに高鳴り続ける。いつか心臓が壊れてもおかしくない。
「大我」
「…んだよ」
あたしも彼の様に前を向く。未来を向く。そっと力強く見据える。…そこで笑い合うあたしと彼を想像した。
「…てっぺんの景色は……鮮やかでとっても綺麗なんだろうね」
あなたと見る景色は…例えてっぺんじゃなくても美しいんだろうなぁ…。
そんな事を考えるあたしを彼は一笑。そしてこう続けた。
「んなの、ったりめーだろ。
今からそれを見に行くんだ!はぐれんじゃねぇぞ?」
「はぁ?なに言ってんの?
置いてかれて泣き言漏らすのはそっちだよ?」
お互い、不敵な笑みを浮かべて前を強く向く。



てっぺん



(頑張れば頑張る程)
(鮮明さは強さを増すんだ)
(あなたの未来も)
(あたしの未来も…)

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