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□気付いて下さい *前編*
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「?…どうした、シュラ」

 一応話が一区切りしてから、シュラの手が止まっている事に気付いて声をかけるが、反応が無い。もう一度名を呼べば反

応は返ってきたものの、やはり様子がおかしかった。理由は判らないが、ミロとカミュの名前を出した辺りから、特におか

しくなったような気がする。

「もしかして、俺がシュラ以外にもメシ作っているの、嫌だった…とか?」

 ぎこちないながらも食事を再開させたシュラの手が、またもや止まる。え、何故に止まるの?言ったデスマスク本人も驚

いてシュラをまじまじと見れば、俯いているシュラの耳が若干赤いような…?

「しかも、一緒に食べていたら嫌だな…とか思った?」

「………だとしたら何だ」

小さいながらもドスの効いた声は、否定はしていないようで。

要はミロとカミュに『やきもち』?を焼いたらしい?

シュラが?

どうして…?
 
それよりも、今置かれている状況が良く判らない。シュラが食事をたかりに来て、いつものように一緒に食べていただけ

のはず。そう、一緒に…。

「シュラ、お前さぁ…俺の事、好きなわけ?」

 『ミロとカミュ』というよりは『俺が他の誰か』と一緒というのが嫌なんじゃないかと、デスマスクは思った。だから何

気なく、本当に軽い気持ちで聞いただけだったはず。しかし、目の前のシュラの反応に、今度はデスマスクの動きが止まっ

た。

 表情までは見えないものの、耳は真っ赤で首まで赤くなっている。まあ、顔も赤いから俯いているんだろうが、この反応

を見る限り答えは明白で。だがどう考えたって、『ちゃんと食べろ』や『生きろ』や『死にたいなら俺が捌いてやる』とかい

つも言っている奴が、実は自分に惚れてましたなんて、誰が思う。確かに、友情にしては少しおかしいスキンシップも、た

まにはあったかも知れないが。

「………マジ?」

 そう聞いてしまった自分は悪くないと思う。

「ッ…黙れっ!!」

 言うが早いか、立ち上がった途端に手にしていたフォークを、シュラはデスマスク目掛けて投げ放つ。いきなりの行動に

ギョッと驚き咄嗟に避けたが、壁から聞こえた音に驚いて振り返れば見事な程、壁に垂直に突き刺さったというかめり込ん

でいるフォークに一瞬青くなる。

「おま…っ、おい、シュラ!お前本気で投げたろ!普通こんな刺さんねーぞ!!」

「うるさいッ!!!」

 壁に刺さるフォークを指差して抗議するも、怒り狂うシュラの姿と罵声に何故か気が削がれていく。怒っているはずなの

に、泣きそうにも見えるその表情は一体何なんだ。そのまま黙りこむデスマスクをシュラは一睨みし、そのまま静かに巨蟹

宮を去って行った。

 シュラが去った後、デスマスクは一人考え込んでいた。どうしてシュラがキレたのか、その理由が判らないのだ。

 『好き』という事に驚いたのがいけなかったのか、聞いた事がいけなかったのか。態度が良くなかったのか。恐らくは全

てが当て嵌まり、相乗効果の結果ブチ切れたのだろう。

 それでも判らないものは判らない。『シュラはデスマスクが好き』それは判ったからいいとして。それならシュラは自分に

どうして欲しいのか。『うるさい』と『黙れ』だけでは何も判らない。シュラとしてはあの時のデスマスクの返答は好ましく

ないものという事だけが、唯一判っている事。せめてもう少しヒントになりそうな言葉を残して帰ってくれ。

「てゆーかさ…抜けるのか、このフォーク?」

 渾身の力では無いにしても、柄の方まで石の壁に深く突き刺さっているフォーク。いっそ避けないで、この身に受けていた

方が良かったかもな、と思いつつ、テーブルの上に残されたモノをどうするべきかを考える事にした。

 自分の物も食べかけだが、シュラの方の皿も食べかけ。

 捨てるのは勿体ない。自分の方の皿は残り一口なので口の中に掻き込み、シュラの残した物は明日自分が食べようと考え、

冷蔵庫の中に押し込んでおく。

「さて、これからどうしたモンかねぇ…」

 今の所は、原因不明に怒り狂うシュラが落ち着くまでは放っておこう。それで明日はアフロディーテにでも話をして、原因

は何かを考えてもらおう。

こういうややこしくて面倒な事を考えるのは苦手なのに、とぶつぶつ呟き、一人の巨蟹宮で何事も無かったかのように後片

付けを始めた。




                                                      *続*
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