書庫
□休日と子供とやきもち
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巨蟹宮は久々に、主のデスマスク一人だけ。最近、巨蟹宮に居るのが当たり前になりつつあるシュラは、使いで聖域を出ていて
夕方までは帰ってこない。静かな宮のリビングでのんびりと読書をしていると、何やら外から賑やかな声が聞こえてくる。その声
はこの宮の入口に近づいて来るのが判った。
「デスー!デス、いる〜?」
「…ミロ」
言うと同時に開かれるドア。足音を響かせながら人懐っこい笑みを浮かべているミロと、彼の行動に呆れた表情のカミュの姿が
巨蟹宮のリビングに現れる。
「…相変らす無駄に元気だな、ミロ」
二人の出現に、今日の読書は終了となった。デスマスクの言葉を聞いて、何故か得意げに胸を張るミロは少し思考がズレている
と思う。カミュもそう思ったのか、額を押さえて溜息を吐き出していた。
「読書中にすまない、デス」
ミロの代わりに詫びを告げるカミュに、別にと返し、取り敢えずソファーに座るよう促した。
「で。二人揃ってどうした?」
「どうしたって、今日ってスゲー久しぶりじゃん!!」
「?…何が?」
訪問の件を訊ねてみると、意味の判らないミロからの返答にデスマスクは首を傾げた。お願いだから判る言葉で話して欲しい。
「はぁ…今日、私をミロは休暇を頂いていてな。デスも休暇を頂いていると聞いたから、久々に訪ねてみようという話になって」
「ああ。なるほどね」
カミュの素晴らしい補足により、話は大体判った。聖闘士にも定期的に休暇が与えられるが、確かに最近はカミュとミロの休暇と
重なった事は殆どない。尤もシュラとは最近殆ど重なるのだが…。これにはきっと何か裏があるに違いない。シオンとサガが絶対何
かしていると思う。
「そうっ!だから今日はデスと一緒に過ごす事にしたんだ」
満面の笑みでミロは言うが、本人の許可を取らずに一緒に過ごすのは決定事項らしい。まあ、今日は夕方まで一人で静かに過ごす
予定だったが別に構わないか、とミロの提案を了承する。それにはカミュも年相応の嬉しそうな笑みを浮かべている。予定も変わっ
た事だし、まずは飲み物を用意しようとデスマスクはキッチンへと向かった。
それからのミロはとにかく凄かった。デスマスクを前にしゃべり通しで、何処に話のネタを仕舞っていたんだという位に話しっぱ
なしだった。日常の事。カミュの事。カミュの弟子の事…等、一計ん聞いていて飽きそうな話題でも、ミロの楽しそうな表情と一生
懸命デスマスクに話す姿が微笑ましくて、ついいつまでも話を聞いてやりたくなる。それはカミュも同じで、ミロの話の合間に織り
込まれる会話ではあるが、自分の事を話すカミュはどこか嬉しそうでこちらも見ているだけで笑みが浮かんでしまう。
一通り自分たちの事を話し終えて満足したミロだったが、彼の洩らした一言から会話の内容が一転する。
「シュラって、い〜っつもズルイよね」
お子様の考える事はよく判らない。急過ぎる話題と突拍子もない言葉に、デスマスクは目をキョトンとさせ、またもやカミュがミ
ロの言葉に補足を加えた。
「私とミロは休暇が重なる事は多いが、デスとは中々重ならないのが不服だと、最近ミロが煩いのだ」
何気に最後の方にミロに対する愚痴が含まれているのは、それだけカミュは話を聞かされげんなりしているのが滲み出てしまった
のだろう。それは良しとして、そこにシュラが入って来る理由は、とデスマスクは訊ねかえした。
「だってデスが休みの日って、大概シュラも一緒に休みじゃん!ズルイ!!」
「いや…ズルイって言ってもねぇ」
子供のように頬を膨らませて不貞腐れるミロに、ただ苦笑いするしかない。
「ミロ、デスにズルいと言っても仕方ないと思うが」
「じゃあ、シオン様やサガに言えばいいのかよ?」
言ったら休暇を取り消されるのがオチだから、やめた方がいいぞ?と内心呟き、二人の会話を聞きながら空きかけのカップに茶を
追加しといてやる。
「昔はもっと一緒に遊んだり、出掛けたり出来たのに!」
「それは、私たちが黄金聖闘士になる前の話だろう?」
「それでも!今もデスともっと一緒にいたいの、俺は!」
「ミロ。それでは単なる我儘だ」
「じゃあっ!カミュはデスと一緒に過ごしたくないんだ!!」
「……」
うん、何だろうねこの二人の会話。つーか俺は逆に、何でこの二人はそんなに一緒にいたがるんだろうと不思議に思っていた。候
補生になったばかりの頃から『デス、デス!』と名を呼ばれ、自分の後ろを付いてきていたミロとカミュ。気付けばその関係が、今
でも続いているのだから謎だ。
「ミロ。カミュ困らせてどうするよ」
ミロの一言に、生真面目なカミュは悲しげな表情を浮かべ俯き加減な状態になってしまっている。会話に熱中するのはいいが、相
手の想いを考えずに自分の意見を一方的に押し付けるのはどうかと思う。ましてカミュはミロと同じ気持ちだから、一緒に巨蟹宮に
来たのだろうし。デスマスクの言葉にカミュの姿を見たミロは、しゅんと項垂れ『…ごめん』と小さな声で謝る。
「うん。でも俺じゃなくて、謝んならカミュに、だ」
「…ごめんな、カミュ」
「ああ…」