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□気にいらないわけ
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「シュラはさぁ…」
「…何だ、唐突に」
「前から気になってたんだけど、ミロとカミュが嫌いなの?」
リビングのホットカーペットの上で寛ぐシュラに、今日はあえて聞いてみようと思った。本当は違うと判っているが、最近どうもミロと
カミュを目の敵にしているようだったから聞いてみた。何がそんなに気に入らないのかがデスマスク的には気になるのだ。
一方訊ねられたシュラは、急な質問に目を白黒させ驚きを露わにしていた。いきなり聞かれてどう答えたらいいのか判らないのだろう。
お互い黙ったまま見つめ合う事数十秒、ふと巨蟹宮の入口に人の気配を感じたデスマスクはシュラから視線を外す。視線が外れて内心ホ
ッとしたシュラも訪問者が気になって気配を探れば、こちらにやって来る意外な人物の小宇宙に首を傾げた。
「デスマスク、少しいいだろうか?」
「あ…?どうしたんだ、アイオリア?」
デスマスクの他に人がいるのを感じ取っていたアイオリアは、少々遠慮がちにリビングを覗き込んでくる。今日は何かあっただろうか。訪
ねて来たアイオリアの姿に首を傾げながら、用件を訊ねた。
「この前の皿を返しに来たんだが…」
「ああ、あん時のか。別にいつでもよかったんだけどなぁ〜」
「そういう訳にもいかない。いつもありがとう、デスマスク」
「別にいいって。余って困るのは俺だし…また何かあったら連絡するから、遠慮なく取り来いよ?」
「判った。その時は遠慮なく来る事にするよ。じゃあ、邪魔したな」
「おう。また来い」
皿を渡してから、何やら親しそうに会話を続けるデスマスクとアイオリアの姿を、シュラは無言で見つめ続けた。また来いと言って終わっ
た会話。この二人がこんな風に話をする場所を初めて見た。
早々に帰っていくアイオリアを見送り、その後ろから刺さるような視線を感じたデスマスクは内心どうしたものかな、と考える。最初に質
問をしていたのは自分なのだが、きっとシュラが言葉を発した瞬間から今度は自分が質問攻めにあう事は想像がついていた。ああ、面倒だ
な。
「デスマスク……」
想像通りにシュラが問いかけてきた。普段の声より低く聞こえるのは、この際無視しておこう。
「ん〜?」
「アイオリアとは親しいのか?」
「まあ、宮も隣だしそれなり?ミロとカミュ繋がりで」
はぐらかして話しても余計に機嫌を損ねるのが判っているから、自分で認識している範囲を素直に話していく。
「何故、アイオリアは皿を返しにきたんだ?」
恐らく、シュラが一番気になって仕方なかった事だろう。しかし、少し考えればどうして皿を返しに来たかなんて判るはずだ。何が何でもデ
スマスクの口から聞きたいという、シュラなりの主張と言うべきか。
「何故って、3日前に作り過ぎたラザニアをやったからだけど」
「ラザニア…」
「3日前の晩飯、ラザニアだったろ?思ったより量が多くなったから、小分けでアイオリアにやったんだよ」
「……小分け?」
「そう。返ってきた皿、小さいラザニア皿だったろ」
折角作ったミートソースとベシャメルを少量だけ残しても仕方がない、そう思ったデスマスクは小さい皿にもう一つラザニアを作り、アイオリ
アに取りに来させた。それが3日前の出来事であり、それで皿を返しに来たというのが全ての真相。
「………」
なのだが、どうもシュラは何か気に入らない点があるらしく、話を聞き終えてからダンマリを決め込む始末だ。うん。きっとミロとカミュが気
に入らないのと同じ理由で、アイオリアが気に入らないと思ったから黙り込んでいるのは判る。ただ、その気に入らない個所がデスマスクにはど
うしても判らなかった。だから、今度はデスマスクの方からシュラに訊ねてみる。こちらから問いかければ、答えをそれなりに返してくれるのを
知っているから。
「シュラは、アイオリアが嫌いだから気に入らない…とかじゃないんだよな?」
「………ああ」
「じゃあ…何が気に入らないんだ?」
「……」
優しい声で問いかけながら顔を覗き込んで、シュラの顔を見つめる。不貞腐れているような、拗ねているようなそんな表情を浮かべているシュ
ラ。デスマスクと目を合わせようとはせずに、視線を逸らして緩く下唇を噛み締めたままシュラは言葉を発しようとしない。言いたくないのか、
言いにくいのか。恐らくはその両方。
はてさてどうしたものか。
実は、何が気に入らないのかは判っていた。ミロとカミュが気に入らないのを前提に今までの事、シュラの性格も考慮に加えれば、自ずと答え
が出てくるというもの。問題はそれを自分から言ってしまっていいのか。このままシュラに拗ねられているのは困るし、逆にこちらが言った事で
更に拗ねられるのもまた困る。けれど現状維持もデスマスクには辛いものがあった。
「言ってくれないならさ…俺が想像で言っちゃうけど、いい?」
話してくれないならこちらから言ってしまおう。その方が確実に時間は掛からない。シュラの反応が些か怖いが、その辺は何とかなるだろうし
何とかする。
「シュラは俺がさ、シュラ以外の人物に構うのが嫌なんだろ?」
「ッ……!」
そう問いかければ、シュラの肩が小さく震え、体を強張らせたのが見てとれた。シュラの様子を見る限り、発言に間違いはないようだ。しかし、
そんな理由で目の敵にされているミロとカミュ、その仲間入りをさっき果たしてしまったアイオリアが何だか哀れに思える。
「あのさぁ…構ってるって思っているみたいだけど、俺が一番構っているの確実にシュラだから。それはシュラも判ってるでしょ?」
「それは……けど、」
「まあ。ミロとカミュに関して言えば、アレは二人が勝手に懐いてて、勝手にここに来て騒いでいるのが8割だから。俺が構っているとしても残
りの2割あるかないかだし?」
ミロとカミュは何かに付けて巨蟹宮に来るし、シュラの目にもよく留まるので気に入らない感が強いのだ。シュラがいても気にしないで自分た
ちがしたい事、言いたい事を勝手にして勝手に帰っていくお子様たち。デスマスクにとってはその認識が強いのだが。
「アイオリアもそう。料理分けてやるのも、シュラのを作るついで。余りそうな時にだけあげてるの。判る?俺の世界は今、シュラ中心で動いてる
の。他はあくまでついでなの。だからシュラが周りに目くじら立てたり、目の敵にする必要もないわけ」
捲し立てるように一気に言葉をシュラに告げ、そんな思いを抱くのは無駄な事だし思う必要もないのだと伝える。言い終えた後、聞いていたシュ
ラはポカンとしていたが徐々に言葉を理解していき、気が付けば頬を赤く染めて目を見開いていた。
「え…?ぁ、…うぅ……」
言われた言葉を完全に理解した頃には、小さく唸りながら赤い顔を隠すように俯いてデスマスクから顔を逸らしている。照れ屋なシュラらしい行
動だ。
「シュラ。こっち見て?」
シュラの頬を両手で包み、そっと自分の方へ顔を向けさせる。顔をこちらに向けさせても視線だけは合わせようとしてくれない、そんなシュラが
可愛く思えてデスマスクは小さな笑みを浮かべた。
「照れちゃった?」
「……」
「改めて言葉にされて、恥ずかしくなっちゃった?」
「…うるさい」
「言って欲しかったんでしょ?俺に。シュラが一番で。大切で。大好きだって。改めてちゃんと言って欲しかったんでしょ?」
「そういうわけじゃ……」
「だったらお子様たちの存在なんか、どうでもいい事だろう。俺にとってシュラが不動の一番なんだからさ、堂々と俺の隣にいればいいの。判った?」
シュラの顔を見つめてちゃんと言葉を伝えると、最後に触れるだけの口付けを与える。唇を離せば逸らされていた瞳はしっかりとデスマスクを見つ
め、何故か涙まで浮かべている始末。
「…もう、シュラは泣き虫だな」
そう呟きながら、今度は目尻に口付ける。そうしてやるとシュラの腕が自然と首に絡まり、そのままきゅっと抱き付いてきた体をデスマスクは優し
く抱き返した。
「違う…お前が、泣かせたんだ」
「…その言い方ズルイ。でも、ちょっと嬉しいかも?」
「………ばか」
「ばかじゃなくて、大好きって言って欲しいけどな、俺は…」
相変わらず笑みを浮かべたまま、シュラの体をきゅっと抱きしめながら優しく頭を撫で、時折髪を梳いていく。
「…………大好きだ、デスマスク」
「うん。俺もシュラが大好き」
その後、シュラからの年少組への風当たりは少し弱くなった。
が、その反面。今まで以上に巨蟹宮に居る頻度が多くなったらしい。むしろ住み着いている。そういった方が正しいかもしれない…。
*終わっておこう;*
*後書きの名目での言い訳*
拍手でリクエスト頂いたものの続編になりますが…こんなんでいいんでしょうか;
もうね、シュラが動かなくて大変でした。
ダンマリ決め込んで動かない;
だから無理矢理動かしたんです。
その結果がコレ;
結局は。お子様たちを構い倒す旦那様に、自分が一番だよって言って欲しかった奥様…みたいな?
こんな仕上がりになってしまいましたが、少しでもリクエストして下さった方様が喜んで頂ければ幸いです。
リクエスト、ありがとうございましたvv
2013.01.27