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□意味と理由
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「シュラ」

「何だ?」

「生きていて嬉しい?」

「……は?」

 名を呼んだかと思えば、唐突な質問をデスマスクは投げ付けてきた。こういう時は大抵、精神不安定な状態の時が多い。だがまずは質

問に答えてやるべきだろう。

「生きているのが嬉しいと、思いながら生活する方が難しいと思うが?」

「まあ…そうだよなぁ」

「どうしたんだ、急に…」

 返ってきた回答に適当な相槌を呟くデスマスクを優しく抱きしめ、そっと髪を撫でながらシュラは問いかけた。シュラの胸元に顔を埋

め、髪を撫でる手の心地良さを感じながらシュラの腰にデスマスクの腕が回される。

「ん〜…何つーか、何で生きてんのかなぁ?とか。生きるって何だろうなぁって思っただけ」

 胸元のデスマスクの言葉に、まあまだ想定内だなと思いながら頭を撫で続けた。

「それが判らないからこそ、今生きているんだろう?違うか?」

「う〜ん……そうなのかな?」

「大体において、今生きている人の中で『自分が何で生きているのか』を知って生きている人はいないと、俺は思うぞ」

 本当に難しい事ばかりを考える男だ。最近は死に希望を抱くことは少なくなったが、代わりに生とは何かを知りたがっているようだと、

シュラは感じていた。







 生きているとはどういう事なのか。
 
 生きる意味は何なのか。
 
 自分はどうして生きているのか。







 シュラに言わせれば、そんな事を考えながら生きている人はいないの一言だが、それでデスマスクは納得するような性格ではない。も

っと別の、何かを求めているように思えて仕方ない。それが判れば言ってやれるのだが、生憎とシュラも、その何か、が判らない。だか

らデスマスクと一緒に考え、彼が欲しい答えに近いものをいつも一緒に探している。

「じゃあシュラは。何で生きているんだ?生きていて嬉しいでもない、理由を知っているでもない…なんで?」

 ふと胸元から顔を上げて、こちらをまっすぐ見上げてくる瞳。こういう時のデスマスクの瞳は本当にまっすぐで無垢な子供のように見

えるから、返ってこちらが返答に困ってしまう。

「上手く、言えないが…今は。お前が、デスマスクがいるから」

 今の自分が言える、生きている意味を素直な想いで腕の中の大きな子供に伝えた。ちゃんと伝わるかは判らないが、もし、今生きてい

る理由を自分で付けるとしたならば、シュラの中で一番に思いつくのはデスマスクという存在。

「別に、生きている理由なんてどうでもいいんだ。無理して意味付けをする必要もない…誰かが、お前を必要としている。お前の存在が

大切だと思っている人がいる…それだけ判っていればいいと、俺は思う」

 まっすぐな瞳を見つめ返し、優しく微笑みながらそっとデスマスクの前髪を撫で梳いた。

 きっと人は一生、生きている意味を知る日は来ない。来るとしたらそれは落日の時。命の灯が消えるその一瞬にきっと知るのだ、今ま

での生の意味を。

だから今は知る必要はない。
 
その時が来るまで、必死に足掻いて、泥まみれになりながら、少しずつ前に進んでいけばいい。

「シュラは…俺が、生きていて嬉しい…?」

「ああ、嬉しい」

「ふぅん…」

「本当に嬉しい。一緒に生きられる今が…本当に。ありがとう、デスマスク」

「?……何が?」

 ふと零れた感謝にデスマスクはキョトンと目を丸くする。何がありがとうなんだ、と不思議がって首を傾げてさえいた。その姿が本当に

子供の様で、込み上げてくる愛しさにシュラはデスマスクを強く抱きしめて耳元に囁く。









「生きていてくれて…生まれてきてくれてありがとう、デスマスク」









*了*
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