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□想いの伝え方…?
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「デスマスク」
「あ?」
「お前は『愛してる』と言わないんだな」
「はあ?!」
突然降って湧いた話題に、デスマスクは素っ頓狂な声を上げてシュラに視線を向ける。いつも意味不明な話題を思い
つく男だが、今回ばかりは何を思ってそんな事を口にしたのか想像がつかない。
「あのさ…何で急に、そんな事言いだすわけ?」
「昔はよく遊び歩いていただろうに、そういった言葉をお前の口から聞いた事がないから」
「それ偏見だから…しょっちゅう街に降りてたからって、毎回遊んでたみたいに言わないでくれる?」
「では、何をしに?」
「色々」
「……」
会話が昔の自分の素行に傾き始めたのを軌道修正し、本来の話題の見解を簡単に述べる。
「で、俺が『愛してる』って使わないのは嘘っぽいから」
「?」
デスマスクの返答にシュラは首を傾げる。『愛情』を伝える上で最上級の言葉が『愛してる』だとシュラは思ってい
るが、その言葉を『嘘っぽい』というデスマスクの考え方が不思議に感じられた。キョトンとしているシュラの頭を撫
で、『深く考えるな』とデスマスクは言う。が、そういう言われ方をされると逆に気になるのが人である。
「個人的な捉え方だから、解んないと思うし解らなくていいと思うけど?」
「だったら俺は、お前の捉え方が気になる」
「あのなぁ…」
じっとこちらを見つめ『早く話せ』と瞳で訴えかけてくる。こうなると一歩も引かないのがシュラであり、話すまで
梃子でも動かないのも判っている。
「…普段使わない言葉を使って情を伝えようとするのが嘘っぽいって、俺は思うわけ」
溜息混じりに言葉を零す。話す事事態はいいが、それを聞いても判んないと思うんだけどなぁ。
「普段使わない言葉だからこそ、情の大きさが相手に伝わるんじゃないのか?」
「大きさねぇ…そこまで飾り立てて伝えなきゃいけない感情か?単純明快な言葉でいいじゃん」
「…」
デスマスクの意見は理解出来るが、単純明快な言葉とは何だろう。
「普通に『好き』でいいんじゃね?と、俺は思うの」
「…軽くないか?」
「そう?じゃあ俺が『シュラ』を好きなのも軽いんだ。俺、シュラに言った事ないし?」
「っ!!」
「普段から聞き慣れている言葉だからって、そこに籠る情も軽いとは限らないと思うんだけどなぁ…」
そう呟くとソファの背凭れに深く凭れ、デスマスクはぼんやりと天井を見つめる。
「まあ…シュラが『愛してる』って言って欲しいなら言うけど?」
そんなに言って欲しい言葉なんだろうか。普段使っている言葉の方がすんなりと心に入ってくるし、だから受け入れ
られると自分は思っている。『好き』と『嫌い』は一番単純な感情で、ある種生まれた時から人に備わっているものだと
も思う。
直観的でありながら純粋な感情でもある。『好き』は存在する全てのものに使える。例えば『空気』が『好き』とは言
っても『空気』を『愛している』とは言わない。
そう思うからこそデスマスクは『愛してる』という言葉が嘘っぽく感じられ、使う気にならなし使う相手にも興味を
抱けない。
「……そんなつもりで聞いたんじゃないんだ」
ふと顔に影が落ちる。デスマスクの膝を跨いで膝立ちのシュラが、悲しげな表情でこちらを見下ろしている。
「うん。判ってる」
「お前の…想いを疑った事はない」
「判ってる」
「でも…知りたかったんだ」
「そっか」
途中から何となく思っていた。もしかしたらシュラは一度も『愛してる』って言わない理由を知りたいんじゃないかっ
て。恋人同士なら普通『愛してる』の一つや二つ囁き合うものだろ。自分たちにはそれが無いから気になった、といった
所だろうか。
「やっぱ止めとば?俺を好きなのさぁ」
「嫌だ」
そう告げればシュラから速攻で否定の言葉が返ってきた。しかも思いっきり力が籠ったもので。
「…俺なんか好きになってもいい事ないぞ?面倒なだけだし」
「うるさい。俺が誰を好きになろうと俺の勝手だ」
「そんなに俺の事好きなの?」
「好きで悪いか」
「…いいや?」
取り合えず『好き』を止める気はないシュラの腰に腕を絡めで引き寄せる。そのまま膝の上に座らせてやれば、シュラの
方からギュッと抱き付いてきた。
「何かさぁ…好きって言ってからシュラ、積極的になった?」
以前なら、自分から行動を起こす事はなかったシュラがここ最近『好き』と告げてきてから、何かと行動を起こしている。
といっても抱き付いてきたりとか軽いものだが、それにしたって凄い変化だとデスマスクは日々己の身で実感していたりし
た。想いを告げるだけでこうも人は変わるんだな、としみじみ思う。
「嫌か?こういうの…」
腕の力を緩め、正面から見つめ合う形を取ると少し不安そうな表情のシュラが見つめてくる。
「むしろ、好きだけど俺」
「そうか」
「シュラの事、ぎゅってしてると…ポカポカあったかい気分になる」
「…」
「あったかいな…シュラは」
デスマスクの言葉を聞いて、何だか恥ずかしそうに視線を伏せたシュラの唇を軽く塞いで離れた。
「シュラ、大好き」
「ッ…!!」
額を重ねて至近距離のシュラに満面の笑みと共に告げれば、面白い位に赤面してうろたえ出す。別に変な事を言った訳で
もないのに、面白い反応だ。
「大好き大好き。大好きだよシュラ」
「ッ〜〜!判ったから、もう言うな…恥ずかしい」
「そう?大好きだから言っただけなのに」
笑みを浮かべたままこてりと首を傾げ、再び抱き付いてきたシュラをさっきよりしっかり抱き締めた。その時耳元に『俺
も…大好きだ』と辛うじて聞き取れる小さな声で呟かれた言葉。
「やっぱあったかいなぁ〜シュラは。なあ…しばらくこのままぎゅってしてて?」
そっと頭を抱き込むように優しく抱き締めてくれるシュラ。伝わってくる温もりが心地よくて、そのまま瞼を閉じるとデ
スマスクは温もりに包まれたまま暫くまどろむ事にした。
*終わっとこう…*