書庫

□生きる
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一つのソファーに二人の男が座っている。

一人は本を手に読書に勤しみ、一人はじっとテレビを見ていた。

「デスマスク」

「あ?」

「その本は面白いか?」

「ん〜…微妙?」

 テレビから視線を外す事なく隣のデスマスクにシュラは何気なく訊ねると、普通に答えが返ってきた。

「そーゆーシュラはさっきから何観ている訳?」

「『ミーアキャットの世界』だ」

「……面白い、ソレ?」

「ああ…面白い」

シュラの返答にふぅんと呟き、目の前のテレビの画像をちらりと見た。この男、見た目は堅物で凶悪に見えるも以外に

も小動物が好きだったりする。今テレビに映し出されてるモノはまさにシュラの好みど真ん中。その生き物が砂漠で生き

抜く様を真剣な眼差しで見ているのだろう。まあ、好きなものを観るのは別に悪い事ではない。それを何故自分の宮で観

ないのか、だった。


ここは巨蟹宮。


わざわざデスマスクの宮で観る意味が解らない。

まあ、今更気にしても仕方ない。シュラの行動は時として予測不能な上、暇さえあれば巨蟹宮にいる始末。今ではいる

のが当たり前になりつつあり、慣れは怖いなとデスマスクは思った。

「所で…お前は何の本を読んでいる」

「『完全自殺マニュアル』」

シュラからの突然の問いにデスマスクは素直に答える。と、何とも言えない表情を浮かべたシュラがこちらに顔を向け、

読んでいる本を見つめると溜息を付く。

何?読んじゃいけない??

「どこで買ってきたんだ、それは…」

「ネット通販」

「何故買った」

「タイトルが面白そうだから」

「で、その内容は?」

「純粋に自殺の方法と種類、自殺成功率と失敗した際のリスクとか?」

「……」

何故かシュラの纏う空気の温度が若干下がった。何故に?と疑問に思いつつも次の言葉が来る前に、デスマスクは先手

を打つが如く言葉を放った。

「まあ、一般人が死のうと思ったらそれなりの努力しなきゃ死ねないんだなぁ〜、とか思った」

死ねる確率より失敗した時のリスクの方が高すぎる。高層ビルから飛び降りれば確実に死ねるだろうが、果たして飛び

降りるまでの恐怖に耐えられる人間はどれだけいるのか。

「そもそもこんな本、出版していいのか?てか、この本教本に自殺しようって思う奴なんかいんのかね?」

実はこの本、内容は濃いものでここまで書くかっていう位に細かく書いている。これ読んで『よし、自殺しよう』って

は中々思えないのでは?と、思えるほどだ。デスマスク自身も読んでいて『へぇ〜こんな方法あるんだ』程度にしか認識

しておらず、仮に死のうと思ったとしても表記されている方法で死のうとは思わない。
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