GS美神×ネギま!

□水の精霊と水泳少女
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『パシャッ、パシャッ』



今日も水泳部のプールに波音が響く。

だがそれは彼女をよく知る人が聞けば、あまりにも力のない音であった。



「(こういうとき、水の中ってホントにありがたいな。 こんな顔、みんなに見せられないよ……)」



あの関東大会決勝、ほんの僅か0.01秒彼女に届かなかった。

悲しくて、そして不甲斐なくてアキラは大きな声で泣いてしまいたかった。

でもそれは出来ない。

泣きはらした顔を見せると、きっとあのクラスメート達はまるで自分のことのように心配してくれるはず。

心優しいこの少女は、自分のことでクラスメートに心配をかけたくなかったのだ。

だからこうして、水の中で誤魔化していた。

その時彼女は、慣れ親しんだ水が優しく包み込んでくれるような感覚を覚えた。



ゆらゆらと水に包まれながらも、どうしてもアキラはあの決勝の事が頭から離れない。

あの時もっと指先を伸ばしていればとか、スタートの反応はどうだったかとか、そんなことばかりをあれから毎日繰り返し自問自答していた。



いつのまにかかなり長い時間水に使っていたようで、外はすっかり暗くなっている。

彼女も流石にこれ以上遅くなるとルームメイトが心配すると思い、水から上がることにした。

普段であれば練習後はかなり身体が冷えており熱いシャワーを浴びるのだが、何故か今日に限ってはそんなに冷えていなかった。

そういえはなんだか今日のプールの水は何時もより温かかったような気がしなくも無い。



「(……まさかね)」



一瞬よぎった考えを、アキラは思い過ごしだと自分に言い聞かせ更衣室をあとにする。

その後姿を、廊下の影からそっと見届ける人影があった。



水泳の関東大会から数日後、カウンセリングルームに横島の姿があった。

基本的に横島は月曜と金曜にこの部屋に居る。

そして月曜と金曜にこの部屋を訪れる回数が最も多いのがなんと理事長の冥子であり、さらにはその都度迎えに来た鬼道に引き摺られていくのである。

今日も丁度先ほど冥子が引き摺られていったところに新たな訪問者があった。



「兄さん、いるか!?」


「どした、千雨ちゃん!? この部屋に来るなんて随分珍しいけど何かあったか?」


「ああ。 私のクラスメートに大河内って居るだろ!? こないだ大会があったらしいんだけどよ、どうやら負けちまったみたいなんだ。

本人は明るく振舞ってるつもりらしいんだけどよ、無理してるのがバレバレだ。 

しかも本人は詳しい話しをしたがらないから、回りもみんな気をつかっちまっててよ。

なぁ兄さん、なんとかなんねぇかな!?」



わざわざ千雨がこうして相談に来るくらいなのだ、きっとクラスメート達ではどうしたらいいのかわからない状態なのだろう。

そしてまた、こうして千雨が動いたということが横島たちにとっては重要なことなのだ。

千雨の『何かにひっかかる』ことがあるということだから。



千雨から相談を受けた横島は、それとなくアキラの様子を伺うことにした。

そして今日、ほんの僅かプールのほうから漏れた霊気を感じとり足を運んだのであった。

アキラが帰ったのを確認した後、横島はその霊気を放つ相手へと声をかけた。



「おまえさんは優しいんだな」



その声が聞こえたのか、やがて水面が揺れそして一人の女性が姿を現した。



「なるほどなぁ。 ただの『ウォーター・エレメンタル』じゃなくて『ウンディーネ』だったか……

道理で彼女がずば抜けてるはずだ」


「私のことを知っているのか?」


「名前くらいだがな。 水の精霊様だろう?」


「そのとおりだ。 だが、先ほどの優しいとは一体どういう意味だ!?」


「さっき大河内が泣いていたとき抱きしめてやっていただろ? 昔の職業柄、見えちまうんだわ。 だからだよ」


「ふ、ふんっ!! 貴様、水着姿の乙女を覗き見とは良い趣味をしているな!?」



優しいと言われて照れたのか、ウンディーネはそんなことを口走った。

それに対し横島が反論しようとしたとき、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。



「あら、なんだか知らない霊気を辿って来てみれば…… そんなに女子高生の水着姿が見たかったのかしら!?」


「うふふふ〜。 横島くん〜、それはちょっと〜、困るわね〜」


「アホか、タマモッ! ワイにそんな趣味はないわっ!! 冥子ちゃんも真に受けんといてーっ」



その後、ウンディーネに対し横島たちはいろいろと質問をしていく。

その中で彼女が『大河内アキラ』という少女の『水が好き』『泳ぐのが好き』という強い思いを非常に気に入っており、害を加えるどころか逆に加護を与えているような状態であることがわかった。

この学院の理事長である冥子も話を聞いており、『問題なし』との太鼓判を押したことによりウンディーネはこれからもアキラを見守り続けて行くという事で話しは纏まった。

だがいまのアキラにはこの事実を受け入れる余裕はなさそうなので、暫くは黙っていることにしたようだ。



暫くの間元気のなかったアキラであったが、この日水泳部の顧問から発表された内容を聞き驚きを隠せないで居た。



「なにを驚いている、大河内!? お前は白陵の涼宮に次いで二着なんだぞ、忘れていたのか?

関東大会で三着以内に入れば次は全国大会だろうが。 アイツに負けて悔しいのはわかるが、その悔しさをバネに全国大会で勝って見せろ。

そのためのサポートなら幾らでもしてやる。 なにせ今大会での全国行きはお前だけなんだからな、期待しているぞ!?」



アキラはあの日茜に負けた悔しさで一杯になり、次のことを考える余裕がなくなっていたのだ。

あの0.01秒のために、今まで伸ばしていた髪を切ってしまおうかとも一時期は考えていた。

彼女は周りが見えていなかった自分が恥ずかしかった。



「ぜ、全国……」


「そうだよ、大河内。 アンタは関東で二位なんだから自信持ちなさいって。 それも一位とわずか0.01秒でしょ?

その差を埋める為にも、今日からの練習では腑抜けた態度は許さないよ!?」


「せ、先輩」


「そうだよ、アキラ。 それにアキラの憧れだって言ってたあの人の記録まで後ほんの僅かじゃない。

地方大会なんかより、全国大会で記録塗り替えたほうがカッコいいって」


「うんうん」


「だよねー」


「みんな……」



先輩や仲間の言葉により、アキラの心に再度火が点った。

早速アキラはプールへと飛び込んでいく。

水を掻き分け、再び一心不乱にタッチ板を目指す。



(身体が軽い!? なんだろう、この感覚。 前にも感じたような……)



新たな目標を得たことで心に余裕が出来始めたアキラは、今まで感じた事のない感覚を覚え始めた。

彼女の変化は、クラスメートも敏感に感じ取った。

そしてお祭り好きのこのクラスメート達は、アキラには内緒で全国大会終了後にある計画を立てたのであった。

  
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