ネギま!

□これは『ネギま!』ですか?
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「刹那、木乃香抱えて後ろへ……」



唯一竹刀という武器を持っている千秋が、木乃香と刹那を庇って一歩前へ出る。

そんな千秋たちの前に姿を現したのは、黒い大型の犬であった。

野生化しているのか首輪は無く、尖った牙をむき出しにして低いうなり声を上げながらじりじりと近づいてくる。



「ひっ!」



千秋の背後から小さな悲鳴が聞こえてきた。

正直に言って、千秋も竹刀を持つ手が震えている。

だが今自分の後ろに居るのは、武器も何も持っていない小さな女の子なのだ。

そして自分は武器を持っている。

ならば千秋のやることは決まっていた。



「木乃香をおぶって逃げろ……」



千秋は背後に向かってそう声をかける。

だが一向に返事が返ってこない。

戦いに相手から視線をはずすのは愚の骨頂であるが、ちらりと後ろを向いた。



「……あ、……っ」



千秋が目にしたのは、尻餅をつきながらも木乃香を背後に隠し震えている刹那の姿であった。



この隙を見逃すほど、相手は甘くなかった。

千秋が自分から目を話した瞬間、その尖った牙と強靭なあごで彼に喰らいつこうと一気に飛び掛かる。

しかしこの巨犬が今回獲物として狙いを定めた人間の子供は、まだ幼いなりに父親から簡単な剣術の手ほどきを受けていた。

すぐさま向き直り竹刀を一閃。




「ざんがんけんっ!!」



千秋少年がその小さな身体で何回も、何百回も、何千回も素振りを繰り返した末に会得した技。

その神鳴流の奥義が巨犬の鼻へ直撃する。



『ギャインッ!!』



竹刀で鼻を切りつけられた巨犬は堪らず悲鳴じみた鳴き声を上げた。

そのまま痛みに怯んで逃げてくれればよかったのだが逆に巨犬は怒ったのか、さらに口を大きく開き獰猛な牙をむき出しにして今にも飛び掛ろうと体勢を低くする。



『GAAAAAA!!』



巨犬はその体躯からは創造できないほどの素早い動きで先程自身に一撃を加えた千秋へと飛び掛った。

千秋はもう一度切りつけようと竹刀を振るうが、巨犬はまるで知能があるかのようになんとその竹刀に食い付きさらにはその牙で竹刀をへし折る。

なんとかその隙に千秋は巨犬との距離をとることには成功したが、唯一の武器である竹刀を失ってしまった。



だが『神鳴流は武器を選ばず』。

それは以前父から教わった体術。

会得は不完全ながら、自分一人であったら怪我はするだろうがなんとか逃げ切れるのではないかと千秋は考えた。

だが木乃香と刹那二人を護りながらではどうしても動きが制限されるため、危険度は跳ね上がってしまう。



「刹那、木乃香を抱えてボクの家まで飛べ!! ここからなら家の方が本山より近いからっ!!!」」



そこで千秋が刹那に出した指示というのは、もう一度刹那に先ほどの姿になってもらい二人にここから逃げてもらうことだった。



「アカンてそんなんっ!! 千秋一人残してなんか行かれへんよ。

それに、今度あの姿見られたらウチはホンマに……」


「しっかりしろ刹那っ!! 今一番大切なのはボクと刹那で木乃香を護ることだろう?

ボクには神鳴流の技があるけど、二人を護りながらはまだムリなんだ。 だから頼む……」



刹那はどうしてもあの姿にはなりたくなかった。

だがどう考えても千秋の言うように自分達は足手まとい。



『バサッ!!』



刹那は覚悟を決め木乃香を抱えて宙に舞い上がったちょうどその時、それまで刹那と木乃香が居た場所を巨犬の前脚での一撃が通り過ぎる。

まさに間一髪であった。



「ざんくうしょうっ!!」



眼下からは巨犬と戦っている千秋の声が聞こえてくる。



(急いで小父さんたちに知らせないと……)



刹那は木乃香を抱える腕に少し力を込め、急いで千秋に言われたとおり彼の家まで逃げることにした。

そして数分後、無事千秋の家が見えたので門の前にそっと着地し羽をしまい千秋の家に駆け込もうとしたその時、刹那の方を見ている木乃香と目が合った。

それはもうバッチリと。




「なぁなぁせっちゃん、さっきの羽しまってまうん? あんなにキレイやのにもったいないわ〜。

ふわ〜、なんやせっちゃんは天使さんやったんやな〜」



以前に受けた仕打ちを思い出しどんな罵声を浴びるのかと身構えた刹那の耳に、いつもと変わらない木乃香のポヤポヤした言葉か投げかけられた。



「あ〜、アキくんが見たらたぶん『かっこいい』とか言うんとちゃうかな〜。 あれ、そういえばウチなんでここにおるん?

ここアキくんの家やんな?」



木乃香に翼を見られたショックと簡単に受け入れられた現実の二つの要因により固まっていた刹那が、そんな木乃香の問いで再起動を果たす。



「はっ!? そうやった、千秋が大変なんやった。 小父さーん、小母さーんっ!!」


「あ〜ん、せっちゃん待ってぇな。 アキくんが大変てどういうことなん?」


「このちゃん、後で説明するから今はついてきてくれる?」



詳しく事情を聞こうと追いすがる木乃香へ、安心させるように笑顔でそう言う刹那。

そして木乃香の手を引いて千秋の両親を探しに家の中へと入って行った。








「「千秋っ!!」」



彼の両親と刹那、そして木乃香が千秋の元へと駆けつけたときにはすでに戦闘は終わっていた。



「「い、いやーーーーーっ!!!」」



その場に木乃香と刹那の悲鳴が響き渡る。

それもそのはず、そこには千秋と巨犬が大量の血を撒き散らし倒れていたのだ。

しかも巨犬が千秋の右腕を肩の辺りまで飲み込んだ状態で……



あわてて千秋の父、四季が駆け寄り様子を見る。



「千菜!!」



父が厳しい口調で妻の名を呼ぶ。

呼ばれた千菜は千秋の胸に耳をつけ、鼓動を確認すると急いで懐から符を取り出し彼に貼り付ける。

そして貼り付けた符の上に手を翳した瞬間彼女の掌に淡い光が灯り、そして千秋の体内へと光は溶け込んでいった。

  
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