GS美神
□夢の続きU
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横島は現状が理解出来ていなかった。いや、「理解したくなかった」が本音か……
先程までは小竜姫に命の危険が迫っていたはずだ。
だか実際はどうだろう。
目の前には小竜姫とワルキューレが目を丸くしながらこちらを見つめている。
「……あ〜、もしかして、戦闘訓練?」
横島の問いにワルキューレが答えた。
「そうた。 互いに武器は一つづつ、超加速抜きの制限つきでな」
小竜姫の命の危険が無い事に安心し、横島はホッと一息ついた。
「「へぇ、ヨコシマは小竜姫さんの事が心配であんなに焦ってたんだぁ……」」
しかし逆に自分の命の危険度がレッドゾーンに突入した事に気付いたが、既にどうしようもない状況のようだ。
「「ねぇヨコシマ、ちょーっと向こうでO・HA・NA・SHIしましょうか……」」
「あ、あのールシオラさん、『お話』の発音がちょーっと違って聞こえるのですが…… それとタマモさん、なんか呼び方かわってません? 」
問答無用で結界の外へ引きずられて行く横島。
「ちょ、やめ……… タマ……あぢっ…………ルシ………堪に…………ギャー………」
時折外から横島の叫び声が聞こえてくる。
壮絶な話し合いが行われているようだ。
しかし、結界の中は中でこちらもカオスであった。
しばらく呆然としていたワルキューレだったが、おもむろに小竜姫の肩を掴んで問い詰める。
「ど、どーいうことだ小竜姫! いつの間に『シャオ』 『忠夫さん』などと呼び合う仲になった!?」
必死の形相でワルキューレは小竜姫の肩をガックンガックンと揺さぶる。
それに対して小竜姫は、頬は赤いが何処か優越感に浸ったような顔をしている。
それがまた癪に触ったのか、ワルキューレの追求が激しさを増していく。
が、そこへまたお騒がせ駄目神が爆弾を放り込んだ。
「小竜姫は始めて横島さんと出会った頃から気になっていたのね〜。 そしてこの間いっしょに夕陽を見たと「ヒ、ヒャクメっ!あなたはまだ懲りないのですかっ!!!」き……」
ヒャクメの言葉は体中を真っ赤に染め上げた小竜姫によって遮られた。
「…………なぜだ」
ボソッと呟かれたワルキューレの台詞に小竜姫とヒャクメがピクッと反応する。
「わ、私だって奴とはそれなりに付き合いは長いはずだっ! なのに何故小竜姫だけ……」
「ちょ、まって、ください、ワル、キューレ。 いった、い、どうし、たの、です?」
今だ肩を揺すられている小竜姫は、途切れ途切れになりながらもなんとかワルキューレに問い掛ける。
「そ、それは……」
何故か真っ赤になり、言葉に詰まるワルキューレ。
だが、そんな彼女に代わって返事をする人物がいた。
「んふふ〜。 ワルキューレはね、小竜姫と横島さんとの仲が急に進展したみたいだから悔しいのと同時に羨ましがってるのね。 ようするに嫉妬なのね〜」
魔族正規軍の士官様の心まで覗いたのかヒャクメよ。
この覗き魔はホントに懲りないらしい。
「ワ、ワルキューレ、まさかあなたも……!?」
ヒャクメの言葉に驚いた様子の小竜姫。
ヒャクメはめずらしく真剣な表情でワルキューレを見つめていた。
(その気持ちはとってもよく解るのね。 私もいっしょなのね〜)
しかし、そんなヒャクメの気持ちなど今の戦乙女に解るはずが無い。
小竜姫の肩に置かれていた手も今や血が滲みそうなくらいきつく握りしめられ、
俯いているため顔の表情は窺い知ることは出来ないが、身体が小刻みに震えている。
「ヒャクメ、き、貴様という奴はっ! まぁいい、小竜姫も含めて私たちもちょっと向こうでO・HA・NA・SHIしようか。 主に拳で……」
「「ヒィッ!!」」
俯いていたワルキューレはおもむろに顔を上げ、とってもいい笑顔(目は笑っていないが)で爽やかに私刑を宣告するのであった………
−それから一時間後−
かつて横島であっただろう赤い肉の塊を引きずりながらルシタマの二人が結界の中に戻ってみると、そこには何故かボロボロになっている竜っ娘、戦乙女、覗き魔がいた。
「な、なにやってたの、あんたたち……」
「なに、私たちも『話し合い』をしていただけだ……」
タマモの呆れを含んだ問いかけに、疲れ切った様子でワルキューレが答えた。
「ま、いいわ。 小竜姫さん、悪いけどちょっと話しがあるの。 一緒に来てくれない?」
真面目な顔で問い掛けてくるタマモに了承し、ルシタマと小竜姫の三人は結界の外に出て行く。
小竜姫の背中にワルキューレの視線が突き刺さるが、とりあえず今は無視だ。
その頃横島はというと、今だに復活できずにいた。
どうやらいつもより激しい『話し合い』が行われたようだ。
「ひとつ聞きたいんだけど、小竜姫さんは忠夫の事どう思っているのかしら?」
小竜姫に向けられるタマモの真っ直ぐな言葉と瞳。
隣で黙っているルシオラも同じ眼をしている。
「私は……」
一旦言葉を区切り、一息ついてから小竜姫は再度言葉を紡ぐ。
「私は妙神山修業場の管理人としてではなく、一人の女として横島さん、いえ忠夫さんのそばに居たいと思っています。
たとえあなたがたお二人が居ても、この気持ちに変わりはありません」
小竜姫の思いが篭った真っ直ぐな言葉。
「はぁ、忠夫には勿体ないくらいの人よね」
「ふふっ、ホントね」
それを聞いたタマモとルシオラはお互いに顔を見合わせ、そんな台詞と共に笑顔で右手を差し出した。
「「これからもよろしくね、シャオ」」
「っ!! は、はい、こちらこそよろしくおねがいしま、す……」
認めてもらえた嬉しさのあまり大粒の涙を流しながらも、竜のお姫様はとても綺麗な微笑みを浮かべるのであった……
小竜姫がルシタマに認められた後、30分程経ってからようやく横島は復活した。
それも小竜姫がひざ枕をしたお陰だろう。
それがなければもう少し復活に時間がかかったかもしれない。
だか、そこはやっぱり横島クオリティ。
実は小竜姫にひざ枕をされた直後に復活していたのだが、太股の感触を愉しむ為にあえて黙っていたのがあっさりルシオラ達にばれ、タマモにこんがり焼かれたのはお約束である。
タマモに焼かれ、アフロになっていたはずの髪もすっかり元に戻った横島は夕陽が見える岩場に座っていた。
彼の隣には小竜姫しか居ない。
どうやらここ妙神山では優先してもらえるるらしい。
「そういえば忠夫さん、さっきは私を助けに来てくれたのですよね?」
小竜姫が上目使いで横島に尋ねる。
抜群の破壊力があるようだ。
「え、えぇ、そうです。 ただの訓練でしたし、最後はグダグダになっちゃいましたけど……」
小竜姫に見つめられている横島は、真っ赤になり指で頬をかきながら答えを返す。
「ありがとうございます……」
頭を下げ、お礼を言う小竜姫。
「と、当然のことをしただけっすから、頭をあげてください!」
それにはさすがの横島もびっくりだ。
慌てて頭を上げさせる。
「あの時本当はとても嬉しかったんです。 なのにお礼を言う暇がなくて……」
「小竜姫さま…」
「さっきみたいに『シャオ』と……」
「シャオ……」
そう呼ばれた小竜姫はとても嬉しそうに微笑みながら、横島の首の後ろに両手を回した。
暫く見つめ合っていた二人だが、やがてどちらからともなく顔を近付けていく。
二人の鼻先が触れ合う瞬間、『チュインッ!』という音とともに灼熱の何かが通り過ぎていった。
「あだっっっ!てか、熱っっっ!!!」
いや、どうやら横島の鼻に掠っていたようだ。
慌てて横島と小竜姫は何かが飛んできた方を見た。
「「ワ、ワルキューレ!?」」
そこにはライフルのスコープ越しにこちらを狙う戦乙女がいた。
「な、なにすんじゃワルキューレ、いいとこだったのにっっっ!!!」
横島のド本音の言葉に真っ赤になる小竜姫。
しかしワルキューレは冷たい瞳のまま吐き捨てる。
「お前たちの邪魔をしているに決まっているだろう!?」
「なんでじゃーっ!!」
小竜姫とのキスを邪魔された横島はすっかり涙目でワルキューレに怒りをぶつける。
「き、貴様が悪いんだろうがっ!! あんなに期待させるようなことを言っていたくせに小竜姫とゴニョゴョ……」
「なんで俺のせいなんじゃーっ! あと、小竜姫さまがどーしたってー?」
ワルキューレの最後のほうの言葉は聞こえなかったようだが、二人の口論は激しさを増していく。
その中へあえて飛び込む兵(つわもの)がいた。
「ワルキューレ、ちょっと詳しく聞きたいことがあります。 とりあえず向こうへ逝きましょうか……」
「し、小竜姫!? 行くの字が違わないか? あ、こら待て横島っ! ちょっと話しがあるっ!!!」
「誰が待つかってんだーっ。 お前の『話し合い』の言語は拳だろーがっ! 小竜姫さまっ、さっきの続きしましょうよー」
「忠夫さんっ、あなたにも聞きたいことがありますっっっ!!!」
小竜姫までもが加わり、先程までの甘い雰囲気はどこかへ霧散してしまったようだ。
「「な〜にやってんだか……」」
この喧噪を影から見ていた蛍っ娘と狐っ娘の呆れたような呟きは、三人の耳に届く事なく妙神山の空へと吸い込まれていった。
気がつけばもうすぐ日が沈む頃。
この、世界がオレンジ色に染まる瞬間はどこで見てもやはり美しい。
ドタバタばかりで騒がしかった一日も、まもなく終わりを告げようとしている。
今日もいろいろあったけど、終わってみればやっぱり彼らにとってはただの日常の一コマ。
蛍っ娘・狐っ娘に竜っ娘が加わったことにより、横島の周りはさらに騒がしくも楽しい日常が待っていることだろう………
〜〜Fin〜〜