GS美神

□夢の続きT
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それから10分程経ってようやく落ち着いたルシタマの二人は、先程横島と話していた少女がオロオロしながらもまだそばにいることに気づいた。



「どうしたの?」



ルシオラは英語で優しく話し掛けた。

幸い南アフリカは英語も公用語として通用するのだ。



実は横島とタマモの二人で始めた店『狐の油揚げ屋』は繁盛し、今では外国人の常連客も増えた。

始めはボディランゲージでなんとか対応していたが、ルシオラが無事復活した後は

彼女に教えてもらったので横タマも日常会話くらいなら英語をしゃべれるようになった。

ルシオラの豊富な知識の中にはしっかり英会話も含まれていたのだ。


閑話休題




「は、はい。 じつは……」



始めは怯えていた少女も、優しげなルシオラの雰囲気に安心したのか横島と何を

話していたのかを喋りはじめた。

タマモと一緒に話しを聞くと、どうやら草サッカーチーム同士の試合があるのだがメンバーが急遽これなくなってしまい困っていたらしい。

そこで助っ人を頼もうと人を探していた所、横島を見つけたのでお願いをしていたのだという。



((あら、ちょっと待って。 と、いうことは……!?))



「ん、んんっ」



ルシタマの二人が何かに気づいたそのとき、背後で横島の咳ばらいが聞こえた。

でっかいマンガ汗を後頭部に流しながらそーっと振り返ってみると、いつの間にか復活した横島がジトーっとした目で二人を見つめていた。



「「ア、アハハハハッ。 あ〜、その……。ゴメンナサイ……」」



そう、横島はナンパをしていたのではなく困っていた少女の話しを聞こうとしていただけ。

それを勘違いして、嫉妬して八つ当たりしてしまったのだ。



((私、サイテーね……))



自己嫌悪に陥り、俯いてしまった二人の頭にポンっと優しく手が乗せられた。

ハッとして顔を上げると、優しい笑顔の横島が立っていた。



「彼女の話しの続き、聞いてやろうぜ、な?」



横島はそう言うと、再び少女と話し始めた。



話しを聞いた横島がどういう行動を取るのか、ルシタマの二人には簡単に想像が付いた。

なぜなら二人が大好きなこの男は、困っている人を見捨てられないから。

ましてや女、子供ならなおさらに……



「なぁ二人とも、ちょっとここで寄り道してってもいいか?」



ほらね?

ルシオラとタマモはお互いに顔を見合わせると、クスッと笑いあう。

先程までの暗い気持ちは、いつの間にか消えていた。









「誰かそいつを止めろっ」

「クソっ、なんてすばしっこい……」

「ヘイ、タダオッ、こっちにパスをっ!」

「そらよっ」



GS見習い時代に鍛え上げられたゴキブリ走法により、フィールドの中を所狭しと走り回る横島。



広いフィールドの中を、ただ単に時間一杯逃げ回るだけなら誰も横島を止められないだろう。

しかしサッカーとは相手のゴールにボールを蹴り込み、より多くの点を取ったチームの勝ちなのだ。



したがって目指す場所がわかり切っているため、対応もしやすい。

そう、中盤を横島に支配されるのならゴール前を固めてしまえば良いのだ。



これぞ草サッカー。

ゴール前の人口密度がハンパない。



スコアは同点。

残り時間もあと僅か。



(ここで勝ち越し点を入れれば、間違いなくヒーローやな。 そしたら周りで見ているお姉さま方もワイの活躍にドッカンじゃー。 よっしゃ、やったるでーっ」



最後は何時ものお約束で口に出していたが、日本語だったため幸い現地の人達には内容が理解できなかった。

しかし、顔はだらしなく緩み切っている。



「ねぇルシオラ、見てあの顔」

「クスッ。何考えてるかまるわかりね。 ホント、いつまでたっても変わらないんだから」



残念ながら横島の計画は、恋人達にはすっかり見透かされていた。



((後で折檻決定ね……))



ルシタマが同じ事を考えながらも試合を見ていたときにそれは起こった。

突然ルシオラとタマモが立ち上がり、横島に向かって叫ぶ。



「危ないっ!避けてっ、ヨコシマーッ!!」

「忠夫っ!」



『ドグシャッ!!』



「「キャーッ!!」」



取り囲んだ観衆が息を飲んで見守るなか、ルシオラとタマモの声だけが辺りに響き渡った……





「……うっ、ここは!? いったいなにが……」



後頭部に柔らかな温もりを感じながら横島が目を覚ます。



「「良かった、気が付いたのねヨコシマ(忠夫)」」



どこか安心したような、聞き慣れた二人の声が横島の耳に届いた。

まだボンヤリとしたハッキリしない頭をゆっくりと動かし、横島は周りの状況を確認しようとする。



「……んぁっ」



その時どこからか少し悩ましげな声が聞こえてきたが、今はそれどころではない。

後頭部に感じる温もりもさらにあたかかくなったような気がするがこの際無視だ。



(ヒジョーに惜しい気もするが、とりあえず状況の確認が先決やな…)



そんなことを横島が考えていると、「忠夫、まだ無理しちゃ駄目よ」という声と共に、額に優しく掌が置かれた。



「なぁ、試合はどうなってるんだ?」



今の状況を聞こうと横島が問いかける。



「安心して、もうすぐ終わるわ。 もちろん勝ちよ。今はゆっくり休んでていいの」



タマモがそう言い終わったときにちょうど審判の長いホイッスルの音が響き渡った。



「あ〜、ところで俺のこの状況は……?」

「それは私が説明してあげるわ」



横島の問いに答えたのはルシオラだった。



「ゴール前に上がったクロスボールにヨコシマとキーパーが競り合ったの。

で、ヨコシマが一瞬早く頭で触れたんだけど、勢い余ったキーパーのパンチングが顎にゴツン。

ヨコシマを一発でKO出来るなんて、あのキーパーなかなかやるわね」



クスクス笑いながらルシオラが状況を伝える。

まぁ事故とはいえ殴られたのが人外の生命力を持つ横島なので、ルシオラとしては全く心配していないのだろう。



せっかく頑張ったのに、ルシオラのそんな言葉にちょっぴり落ち込む横島。

そこへすかさず横島限定悪戯大好き狐っ娘が追い撃ちをかける。



「あのまま最後までピッチに立ってたら間違いなくヒーローだったのに残念だったわね、忠夫?」

「ナ、ナンノコトデセウカ、たまもサン?」



疚しい事に心当たりが有りまくりの横島が、片言のおかしな日本語でタマモに問いかけた。



「アンタが最後の方で鼻の下伸ばしてたの知ってんだから。 あ、もちろんルシオラもね」

「うっ……」



ニヤニヤ笑いながら自分を見ているタマモの顔をみて、横島は自分の相変わらずの迂闊さにようやく気付いたようだ。



「フッ、自業自得ね」

「ぐっ、どーせ俺は所詮道化の方が似合うんじゃ、ドチクショーっ」



タマモに鼻で笑われた横島が泣きわめく。

が、救いの女神はすぐ近くに居たようだ。



「ねぇヨコシマ、この状態で他の女の人にまでモテたいなんて言うのが知られたら、世の中の男の人全員を敵に回すことになると思うんだけど?」



可笑しそうに柔らかく笑うルシオラの声を聞いて、ようやく自分の今の状態を再度確認する横島。



(そういえば、この後頭部に感じる温もりは…)



そう思いながら、タマモとは反対の方に頭を捻る。

すると、笑いながら自分を見おろす形となっているルシオラと目があった。



そう、ルシオラは横島がピッチの外に運び出されてからずーっとひざ枕をしていたのだ。



ルシオラも超が付くほどの美女なのは間違いない。 ましてやタマモは傾国の美女。

この状態でも既に嫉妬の視線が横島には突き刺さりまくっている。

相変わらず本人だけは全く気づいていないのだが……

  
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