GS美神

□狐の夢
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コンコン……



誰かが横島のアパートのドアをノックしている。

時刻はPM10:00を少し回ったところだ。



(誰だこんな時間に!? ったく…)



横島がそんなことを考えていると



「横島、いるんでしょ? 開けてよ」と声が聞こえた。

「ん、タマモか?」と言いながらドアを開ける。



彼の予想通りそこには見慣れた金髪ナインテールの少女が立っていた。



「どした、こんな時間に?」



と尋ねる横島には答えず、彼女はトコトコと部屋に上がりこみ卓袱台の前にポスンと座る。



「おいおい……」



少々呆れ顔で声をかける横島に向かって真剣な眼差しを向け、彼女は問いかけてきた。



「なんで泣いてたの?」

「何のことだ?」

「惚けないで! 私はまじめに聞いてるの。 だからアンタも真面目に答えてよ」

「別に大した事じゃない。 目にゴミが入っただけだって」

「嘘ね」



そんなやり取りがしばらく続いたがなかなか本当のことを話さない横島に対し、正面突破では無理だと感じたのかタマモは作戦の変更を決めた。

『対横島煩悩直撃大作戦』の発動である。

まず手始めに、108種類ある『煩悩直撃弾』のうちの1番・2番を同時に使用する。



「ねぇ横島、なんで話してくれないの?」



瞳をウルウルさせて上目使いで問いかける。



「うっ、それは……」



効果はすぐに現れたようだ。

先程までは当たり障りのない理由をつらつらと並べていた横島が急にどもりはじめ、汗をダクダクと流し始めたのだ。



普段きつねうどんを奢らせる時はこの『煩悩直撃弾』略して『煩直』1番・2番でカタがつくのだが、今回の横島城の守りは堅かった。

なぜなら、タマモが『煩直作戦』に切り替えた瞬間に彼の掲げるジャスティス『ロリ否定』が防衛部隊として心の城壁に緊急配備されたからである。



しかしタマモは攻撃の手を緩めなかった。

『煩直』3・4・5番を立て続けに使用する。



胡坐をかいて座る横島の後ろにすかさずポジションを移す。

場所は背中の中心からやや左肩寄り。

白く小さな手をそっと横島の左太もも付け根付近に置き、右手でやさしく彼の頭を抱える。

そして自分の顔を彼の左頬に寄せることも忘れない。

ここで重要なのは、『吐息が耳にかかる位の距離』だそうだ。

最後に、いまだ発育途上ではあるが脂肪の双山をそっと背中に密着させれば準備は完了。

そして甘い声で囁いた。



「ねぇ横島、あなた私が転生したてで自衛隊に追われてたときに助けてくれたでしょう?」

「お、おう……」



横島くんすでにいっぱいいっぱいです。



「あの時、私すっごく嬉しかったの。 ホントよ?」



タマモはそこで一呼吸間を取り、横島の様子を伺う。

触れ合っている肩や背中がプルプルと震えているのが伝わってきた。



(もう一息かしら?)



タマモは勝負を決めにかかった。



「だからね、今度は私が横島を助けたいの。 ……だめ?」



仕上げに息を『ふ〜っ』と耳に吹きかける。

その瞬間、横島の震えがピタッと止まった。



(やり過ぎたかしら?)



とタマモは身構えたが、横島はいきなり立ち上がり部屋の壁に向かって猛ダッシュをしたかと思えば、次の瞬間ガンガンと額を壁にぶつけ始めた。



「ちょ、ちょっと横島?」



これにはさすがのタマモも驚いて止めさせようと手を伸ばした瞬間



「わ、ワイはロリやないんや〜〜っ! ドキドキなんかしてないんや〜〜〜〜っ!」



横島の絶叫が夜中の町中に響き渡った。



どうやら見事に彼の煩悩に直撃したらしい。

その証拠に、水芸のように額から血を噴出し仰向けに倒れて白目をむいている彼の右手からビー玉程の大きさの翡翠色をした珠が3個転がり落ちた。

ちなみに最終奥技『煩直』108番とはいったいどんなものなのか!?

作者の予想ではおそらく『女体盛「違うわよっ!!」……』

……どうやら違うらしい。



「は、裸エプロンよ……」



真っ赤な顔で答えてくれました。

あなたは横島くんを萌え殺す気ですか???



気絶しているっぽい彼には絶対聞こえないはずの小声だったにもかかわらず、どうやら彼の『ヨコシマイヤー』はハッキリと聞き取ることに成功したようだ。

よく見ると翡翠色の珠が4個に増えている。

鼻からもあきらかに致死量オーバーの出血が見られるが、すっごく幸せそうな顔をしているから生きているのだろう、たぶん……



何時までも復活しない横島に痺れを切らしたのか、額をペチッと叩いてタマモが声をかける。



「ほら、いつまでも寝てないで起きなさいよ」

「へいへい」



横島はそう言いながらムクッと起き上がる。



どうやら彼はずっと気絶していたわけではなかったらしい。

額を打ちつけながら、こんなことを考えられるほどその時までは余裕があったようだ。



(しっかしタマモがこんな手でくるとはな。危うくルパンダイブかますとこやった…… 自分でもよく抑えられたモンや、偉いぞオレ。

でもなぁ、最近はワザとやないと出来んかったダイブが自然に出そうになるなんてなぁ。

ありゃ、文珠まで出てら、しかも3つも。 なーんか昔に戻った気「は、裸エプロンよ……」なんですとぉーーーっ!)



その瞬間に文珠がもう1つ追加生成されたところで彼は盛大に鼻血を撒き散らし、意識を手放したそうだ。



起き上がった彼はなんだかスッキリした顔をしている。

何かが吹っ切れたのか、その顔を見てタマモも安堵のため息を漏らした。



(とりあえず大丈夫みたいね……)



タマモがそんなことを考えていると



「…はぁ、しゃーねぇなぁ。 あんまり他の人には言うなよ?」



そう言いながら、彼はポツリポツリと喋り出した。



半年前に起こった魔神大戦のこと。

蛍の化生である彼女との出会い。

初めは敵同士だったこと。

ある出来事がきっかけで惹かれあっていったこと。

ひと時の平和と最終決戦。

やがて訪れた別れと彼女の最後の言葉。

それからの半年間のこと。



途中、タマモは静かに彼の話を聴いていた。

やがて横島が大まかにではあるが一通り話し終えたとき、タマモが口を開いた。



「アンタ、バッカじゃないの?」



遠慮の欠片もない、世界のマツザカも真っ青な直球が横島めがけて飛んできた。

それに対し人外の回避能力を持つ彼は思いっ切り仰け反ってそれをかわし、カウンターを放つ。



「なんでさ」

「……。 本気で聞いてる?」



しかし、かつて世界の運命を一身に背負った少年の切り返しはものの見事にスルーされてしまう。

渾身の一撃をかわされた彼にはなす術がなかった。



「『ヨコシマはヨコシマらしくいて』だっけ?それには私も賛成よ。 でもアンタその言葉の意味、履き違えてたでしょ。」



確かに先ほどのタマモの行動は少々強引ではあったものの、おかげで気持ちが楽になったような、少し心が軽くなったような感じがするのも確かな為、横島は文句を言わずに何かを考えているようだった。

タマモの言葉は痛烈だったが、自分を心配してくれているのが横島にはよくわかった。



「……ありがとな」

「別にお礼なんていいわよ。 ホントはもっと言いたいこといっぱいあったんだけど、アンタも自分で気が付いたみたいだしね」



横島にはそんなタマモの気遣いが嬉しかった。



しばらくの間二人は無言であったが、思い出したかのようにタマモが口を開いた。



「ねぇ、ルシオラさんのこともっと詳しく教えてよ」

「他人が聞いても面白くないと思うんやが……」

「私が聞きたいんだからいいじゃない」







それから数ヶ月、タマモはしょっちゅうアパートへ遊びに来て時には笑いながら、時にはジト目で呆れながらもルシオラ達の話を横島から聞き出すのであった。

その際必ず彼の非常食である『赤○きつね』が2つずつ無くなっていき、その度に文句を言う横島であったが決して『緑○たぬき』にしないところや隠し場所を変えないところなどをみると、彼なりの優しさが窺えるのであった。



(あの時からだったっけ…… さすがに今考えるとちょっとやりすぎだったかな?)



ずいぶん長い時間思考に没頭していたようで、タマモはすっかり冷めてしまったきつねうどんを啜りながらなんとなく時計を見た。



「やばっ、もうこんな時間!?」

「げっ、美神さんにシバかれてまう! タマモ、急げっ!」

「ちょっ、待ってよ横島!」



今日はこの後美神の指示により、横島とタマモの二人で郊外の森へ霊障の調査へ行く予定となっていた。

二人は慌ててアパートを飛び出し、真っ赤な夕日を浴びながら美神の事務所へ向かって走り出すのであった……

   
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