GS美神
□狐の夢
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第1話『煩悩直撃!?』
「おかえりなさい、タマモさん」
「ただいま、人工幽霊一号。 みんないる?」
無機質なその声にそう返事をして、金髪少女は問いかけた。
「オーナーはオカルトGメンに出向かれており留守です。 おキヌさんはまだ学校から戻られておりません。
シロさんもまだ外出中ですので、今は横島さんだけです」
という人工幽霊一号の答えに「そう」と興味なさげに返事をし、彼女は事務所の中に入っていった。
「ただいまー。 ねぇ横島、きつねうどん食べに連れてってよ。 おなかすいちゃ……っ!」
そう言いながらドアを開けた彼女は、最後まで言葉をつなぐことが出来なかった。
ドアを開けた彼女の目に、真っ赤な夕焼けを見ながら大粒の涙を流す少年の姿が映った。
そこにはタマモのよく知る『バカでスケベだけど明るくて優しい』普段の横島の姿は無く、喜びや悲しみ、嬉しさや寂しさ等のすべての感情があふれすぎているが故に無表情で。
指が触れるだけでサラサラと崩れ落ちそうなほど儚く、危うい雰囲気を纏った一人の少年が立っていた。
「よこし……ま…?」
タマモは震える声でそう呟くのが精一杯であった。
「お、やっと帰ってきたか。 おかえり、タマモ」
心臓を鷲掴みにされたような感覚をおぼえ、目の前にいる少年を直視出来ず俯いてしまった彼女に横島から声が掛かった。
パッと上げた視線の先には、いつもの明るい笑顔でこちらを見ている横島がいた。
「う、うん」
そう答えるのがやっとのタマモに対し
「今日はもう仕事も無いみたいだし美神さんもまだしばらく戻って来ないようだから帰るわ。美神さん達が帰ってきたらそう伝えてくれよ。んじゃ頼んだぜ」
そう言い残し横島は事務所を後にする。
「わかった…」という彼女の小さな声に背中越しに手を振りながら……
その後しばらくして美神とおキヌが揃って帰ってきた。
どうやら外で一緒になったようだ。
タマモは先ほどからずっと気になっていた事を二人に尋ねることにした。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」「どうしたの、タマモちゃん?」
美神は面倒くさそうに、おキヌは彼女の雰囲気そのままに優しく問いかける。
「横島ってさ、何か夕焼けに特別な思い出でもあるの?」
そう問いかけた瞬間、美神とおキヌ二人の肩が『ピクッ』と震えたのをタマモは見逃さなかった。
「さぁ? 何でそう思うのよ」
努めて冷静な声で美神が問いかけてくる。
チラッとおキヌをみると彼女は唇をかんで俯いてしまっていた。
よく見ると美神も似たようなものだ。
(何か知ってて隠してるわね、でもそんな顔をしてちゃバレバレよ。 まだまだ甘いわね)
タマモはそんなことを考えながらも
「別に。ただなんとなくよ…」と表情を変えずに美神に答えた。
それに対し「あっそ」と短く答える美神であったが、その心の中はただ単に興味が無いだけなのか、はたまたこの話題に触れてほしくないのか。
恐らくは後者だろうが…
この場にいたのが美神だけだったならこの会話はここで終わっていたかもしれないがここにはもう一人『横島LOVE』な巫女少女がいる。
彼女はここで引き下がらなかった。
「なにかあったの、タマモちゃん?」
そんな彼女の問いに対してもタマモはやはり
「別になんでもないわ」とそっけなく答えを返す。
しかし本人ですら自覚していない『何か』をタマモから感じ取ったのか、おキヌは対タマモ用究極奥技を繰り出した。
普段はそんなことを言わない彼女も横島の事となると話は別のようだ。
「タマモちゃん、しばらくお揚げ抜「泣いてたのよっ!」き…」
「「「はやっ!」」」
三人の声がハモる。
タマモの完敗であった。
小竜姫さまの超加速をもってしても追い切れないであろうほどの即答ぶりであった。
美神とおキヌは唖然としてタマモを見つめているが、突っこまれたタマモだけはいち早く気がついたようだ。
そう、『三人に』突っこまれたのだ。
タマモはジト目で天井を睨み、ボソッと呟く。
「アンタが私たちの会話に突っこみ入れるなんて珍しいわね、人工幽霊一号?」
「「あっ!」」
その言葉で美神とおキヌも気が付いたようだ。
「はぅ………、 申し訳ありません……」
人工幽霊一号がタマモに謝るが、彼女はたいして気にしていないようで
「別に謝んなくてもいいわよ」と呟いただけであった。
再起動を果たした美神とおキヌがそろって
「「泣いてたってどういう事(ですか)?」」
と身を乗り出して問いただしてくる。
「そのまんまよ。 夕日を見ながら泣いてたの」
「「そう(ですか)…」」
タマモの答えを聞いたとたん、美神とおキヌの表情が沈痛なものに変わる。
「理由知ってるんでしょ、教えてくれない?」
「私たちの口から話すのはちょっとね……」
そう問いかけるタマモに対して力なく美神がそう呟き、おキヌは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「そう、ならいいわ」
そんな二人の表情を見ながら何かを考えていた様子のタマモであったが、そういい残し自分の部屋へと階段を登って行ってしまった。
「横島クン……」「横島さん……」
残された二人の呟きは、人工幽霊一号だけが静かに聞いていた……
部屋に戻ったタマモはベッドの上で仰向けに寝転がり、何かを考え込んでいた。
(アイツにとって夕日がどんな意味を持つのかあの二人は知ってるのね。 でもアイツにとっては悲しいことだから触れられない、といったところかしら。
周りの皆にあんな顔をさせたくないからアイツはアイツなりに考えて……
アイツ変なところで鋭いから、だから自分の感情を押さえつけた結果あんな風に!? だとしたら………… よしっ!!)
どうやら考えがまとまったようで、彼女はその夜自分の決意を早速実行に移すのであった。