GS美神

□吸血姫が望む永遠!?
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第1話 『呼ばれて飛び出て……』




(ちぃっ、厄介なものを……)



少女は心の中でそう呟いた。

目の前には口元を歪めて男がたたずんでいる。



「クククッ、さぁ観念するがいい忌々しい化け物め。

いくら貴様が伝説級の化け物でも、この不死殺しの剣からは逃れられまい……

その腕の傷も、まだまだ治るには時間がかかるのだろう? 

なーに、正義の魔法使いのこの俺がすぐに楽にしてやるさ。

だがその前に、冥土の土産に良いものを見せてやろう」



男はそう言うと、懐から何かを取り出す。

少女には最初それが何なのか分からなかったが、男の動作からなんとなくの当たりをつけた。



(指輪……か!?)



懐から取り出したものを指にはめながら、男はまた厭らしい笑いを顔に貼り付け得意げに説明を始める。



「これは俺が作った魔法具でな。出来上がったばかりなのであいにく名前はまだ付けていないが、効果は抜群だぞ。

なにしろ制約無しで爵位級の悪魔を召喚出来るのだからな。

一気に止めを刺すのもいいが、少し遊んでやろう。

クククッ、さぁ絶望に打ちひしがれるが良い……」



男はそう言い放ち、いつの間のか足元に描かれた魔法陣に指輪をはめた手を翳す。

その瞬間魔法陣が淡く発光し、辺りに濃密な魔力が吹き出し始めた。



(クッ、これが制約無しの悪魔の魔力か……

不死殺しの剣だけでも厄介なのに、そんなものまで呼び出すとはっ!)



いつでも動けるように、内心は焦りながらも少女は注意深く魔法陣を睨み付けた。

やがて魔法陣が目を開けていられないほど眩く発光し、直後激しい魔力の奔流が起こる。



「っぐぅぅっ!!……」



まるで押しつぶされるほどのプレッシャー。

今まで感じたことが無い程の恐怖を感じる。

今まさに、少女の命を懸けた戦いが始まろうとしていた。




『ドスンッ!!』と何かが上から落ちてきたような音が辺りに響く。



「ぐぇっ!!」 「きゃっ!!」 「ちょっ……!!」 『ゴシャァッ!!』



最後の音だけなんだかやたらと重厚感があふれているような気がしないでもないが、少女にとってはそんなことは今はどうでも良いことだった。



(な、なんだこのプレッシャーは…… しかも一体じゃないだとっ!?  くそっ、くそっっ、くそっっっ!! 最悪な状況じゃないかっっ!!)



収まりかけた光の中に確認できた物陰は、少女の心の中に絶望を植えつけるには十分だった。

荒れ狂う魔力の奔流に巻き上げられた砂埃の中に見える影は4つ。

その影から感じる魔力は、自分の力に絶対の自信を持っていた少女を遥かに上回っていた。



やがで砂埃が晴れ、少女は召喚されたモノを視認することができた。

姿を現したのは若い男が1人に女が3人。 

いや、女のうちの1人はどうやら人間ではないようだ。



「召喚に応じて現れた悪魔達よっ! さぁ今こそあの呪われた化け物を倒せっ!!」



召喚した魔法使いの男は勝ち誇ったような顔で命令を下す。



「くっ、遂に私もここで殺されるのか。 だが簡単には死んでやらんぞ。

ふふふっ、私は最強の悪の魔法使いだ、少しでも多く道連れにしてやろう……

さぁ、命が惜しくない奴からかかってくるがいいっっっ!!!」



少女は自身の死を覚悟し、それでもなお生き延びるために全力で抗うために叫ぶ。



「「「へ…?(は…?)(え…?)」」」



しかし召喚されたはずの相手から返ってきたのは少女を倒すための行動ではなく、ただの疑問と驚きの混じったなんとも間抜けな声であった。



「どこだ、ここ?? てかルシオラ、魔力の制御解けてるぞ」



キョロキョロと辺りを見回し、バンダナを巻いた男が黒髪の美女へ話しかける。



「あら、ホントだ」



ルシオラと呼ばれた女性がそう呟いた瞬間、先ほどまで荒れ狂っていた魔力の奔流が嘘のように静まった。



「あいたたた…… なんなのよまったく。 それにしてもいったいどこなのよ、ここ? それより忠夫、マリアは大丈夫なの?」



金髪のこれまた見事な美女がお尻をさすりながら尋ねている。



「はっ、そうだった。 ルシオラ、いったいどうなったんだ?」

「確かあの時マリアさんを充電してた最中だったから、どこかから漏電してて感電したんだと思う。

でも、普通に感電しただけならこんなことにはならないと思うんだけど……」

「そういえば昔、まだGS見習いをやってたときにも同じようなことがあったな。

あん時はたしか感電した際にあの人の時間跳躍能力に巻き込まれて中世ヨーロッパへ飛ばされたんだったな〜」



そんなルシオラの疑問に、心当たりのある横島だった。



「でも今回はあの人いないし、それに前回と違い何かに引っ張られたような感じがしたんだよな」

「詳しい話は後にしましょ。 とりあえず、マリアさんを起動させないと」

「そうね、そうすればマリアの能力でいろいろ分かるでしょうし。 ついでにルシオラの作った兵鬼のテストも出来るじゃない」

「あ、それもそうね。 じゃぁ、さっさとやっちゃいましょうか。 ヨコシマ、『電』の文珠出して」



何度か時間移動の経験がある横島であったが、どうやら今回は何かが違うらしい。

しかしそんな経験の無いルシオラとタマモは、大体の原因が分かったためか意外と楽観的だった。



その光景に、思わず少女も自称正義の魔法使いの男もわけが分からず固まってしまった。



(なんなんだ、こいつらは? 私を殺せという命令を受けているんじゃないのか??)



少女が戸惑っていると、驚愕から復帰した魔法使いの男が痺れを切らして叫ぶ。



「何をしている貴様らっ! 命令どおりさっさとあの化け物を殺せっっ!!」



その怒鳴り声を聞いた横島が、チラッと少女に目をむけ呟いた。



「なぁルシオラ、タマモ。 化け物なんてどこにいるんだ?」

「「さぁ?」」

「だよな〜。どっちかっつうと、あのおっさんのほうが悪モンなんじゃないか? あの子、怪我してるみたいだし」

「「言えてるわね〜」」



ルシオラとタマモはそう言ってクスクスと笑う。

それを見た魔法使いの男は顔を真っ赤にして怒りを露にし、横島たちに向かって魔法を放つ。



「魔法の射手・連弾・火の17矢っ!!」



男から放たれた炎の矢が横島目掛けて襲い掛かってくるが、横島たちは慌てることは無かった。



「サイキックソーサーっ!」



かつてGS免許の試験の際に始めて発露した横島の霊能力。

淡い翡翠色の光を放つ六角形の盾が、襲い掛かってきた炎の矢をすべて弾き落とす。



少女は自分の目を疑った。

なぜなら恐ろしいほどの魔力を放っていた黒髪の女性ではなく、何のとりえもなさそうな冴えない男が無詠唱で強力な光の盾を具現化させたのだ。



(むっ、おそらく『ヨコシマ』という男も魔法使いか!? それもかなりデキるな。 しばらく様子を見るか……)



少女がそう考えているうちに、周りの状況が慌しくなっていた。

炎の矢を弾き落とした横島が、タマモとルシオラに指示を出す。



「狐火っ!!」



指示を受けたタマモが得意の狐火を放つ。

先ほど横島が受けた炎の矢よりも高火力の炎の塊が魔法使いに向かって襲い掛かっていった。



(無詠唱であれほどの火力の魔法の射手だとっ!?)



しかし少女の驚きはこれだけではすまなかった。

魔法使いはなんとかタマモの狐火を避けることに成功したが、避けた先にはルシオラが待ち構えていた。



「くっ!」



一瞬動きが止まりかけた魔法使いであったが、不死殺しの剣を握り締めルシオラに向かって振り下ろした。



(よしっ! 仕留め……)



男が心の中でニヤリと笑った瞬間、目の前の獲物の姿が掻き消えた…… ように見えただろう。

次の瞬間、魔法使いの後ろに回りこんだルシオラは首筋に麻酔を打ち込みあっけなく男は意識を手放した。



(なっ、瞬動かっ!)



いったい今日何度目の驚きだろうか。

少女は今目の前で起きたことが信じられなかった。



魔方使いとしての腕は今気絶した男より上であったが、すでに30人ほどの魔法使いを倒した後だったので不死殺しの剣もあり若干彼女が押されていた。

しかし、今目の前にいる女は二人掛かりとはいえ魔法の射手と瞬動のみであの男をあっけなく無力化したのだ。



少女が思考の海に入り込み、状況整理に没頭していると突然辺りが光に包まれた。

その次の瞬間には、今まで横たわっていた女性(!?)が起き上がっている。



(あれはパクティオー……か?)



少女の中では横島たちは完全に魔法使い認定されてしまったようだ。

実際には『電』『力』の文珠が無事変換されてマリアが起動しただけなのだが……
 
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