GS美神×ネギま!

□水の精霊と水泳少女
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『パシャパシャ』と水を掻き分け、一心不乱に一人の少女が数十m先のタッチ板を目指す。

通常タッチ板は水泳連盟公式の競泳競技においてタイムを測定する目的でプールの両側(25mプールの場合はスタート側のみ)に設置されるのだが、

ここ六道女学院では、より公式競技に近い形でのトレーニングをするために水泳部の使う50mプールにはタッチ板が設置されていた。



「大河内、私は先に上がるわよ!? あなたもいくら関東大会が近いからといって無理はしないようにね?」


「はい、ありがとうございます先輩。 あと三本泳いだら切り上げることにします」



水泳部の先輩からそう声をかけられ、大河内と呼ばれた少女はそう答える。

そして先ほど泳いで乱れた息を整えると、改めてスタート台へと足をかけた。

彼女は精神を研ぎ澄ませ、競泳の試合会場をイメージする。

そして『ピッ』というスタートの合図をイメージし、彼女は勢いよく飛び込んだ。



(良いペース!)



彼女自身もそう感じており、いよいよ残り数m。

だがここで予期せぬ出来事が起こった。

いつも通りの泳ぎ方で泳いだはずなのに、何故か1ストローク少ない回数で泳ぎきってしまったのだ。

危うく普段のようにもう一掻きしようとして壁面に頭から激突するところであった。

あわてて掻くのをやめ、タッチ板に手を伸ばす。

水面から顔を挙げ電光掲示板のタイムを確認すると、やはりわずかに何時もの平均タイムより早いことが見て取れた。



その後予定通り残りの二本を泳いだ彼女であったが、その二本は何時もと変わらないストローク数でタイムも彼女の練習時の平均的なものであった。

彼女は先ほどの出来事を多少不思議に思いながらも今日の練習は切り上げることにし、シャワーを浴び着替える為にプールを後にする。



『チャプンッ』と小さな波しぶきの音を立てプールの中からその後ろ姿を見届ける人影に、このときはまだ誰も気づかなかった。






『タタタタタタッ』



リズミカルな足音を響かせながらを、彼女は放課後一人で水泳に必要な早筋を鍛える為無酸素で20〜30mの距離のダッシュを繰り返していた。

今日は点検の為プールが使用できず、水泳部の部活は休みなのだが関東大会の参加選手に一年でありながら選ばれている彼女はこうして黙々と陸トレをしているのだ。

そこへこの男が通りかかった。

今日は月曜だった為授業は無いが、カウンセラーとして出勤していた横島だ。



「がんばってるね、大河内さん」


「ッ!?」


「あ、ゴメンゴメン。 驚かせちゃった?」



いきなり声をかけられ、彼女が驚いたのが見て取れた横島は軽く頭を書きながら少女へ謝る。

彼女は千雨のクラスメートであり、六女水泳部期待の星でもある為比較的早い段階で横島は彼女の名前を覚えていた。



「ビックリさせないでください、横島先生……」



ほんの少しの抗議を載せた口調で彼女はそう答えた。

だが表情を見る限り決して怒っているわけではなさそうだ。



「いや、教室の窓から大河内さんが一人でがんばってる姿が見えたから声をかけてみたんだが逆に驚かせちゃったみたいだね。

練習の邪魔しちゃったかな?」


「いえ、ダッシュはひと段落着きましたので……」


「じゃあ、はいこれ」



そういって横島はスポーツドリンクを差し出す。



「え!?」



いきなり渡された理由がわからず、彼女は横島の顔とスポーツドリンクを交互に見比べる。



「トレーニングも大事だけど、シッカリと水分補給もしないとな。 水道水よりこっちの方が身体にもいいだろう?」



先ほどから彼女はたしかに手洗い場の蛇口を上に向け、水道の水で水分を補給していたのだ。

そこまで見られていたのかと彼女は頬を朱に染める。



「んじゃ、がんばってな」



だがそんなことは気にしないとばかりに横島はそんな一言を残しその場を去っていった。



(少しは見直してもいいのかな……)



彼女は初めて見たあの廊下での出来事のインパクトが強すぎ横島に対してあまり良い印象を持っていなかった。

だが最初の授業でのさよやみんなへの対応や、今回の短い間ではあるがこのやりとりで少しは心境に変化があったようだ。

彼女はしばらく横島が去っていった方をじっと見ていたが、改めてトレーニングを再開することにするのであった。







「アキラ、 久しぶりっ!! 調子はどう?」


「絶好調。 茜、今日は負けないから」


「そうこなくっちゃ。 私だって負ける気は無いからね!! じゃ、またあとで」



そしてやって来た関東大会当日、彼女『大河内 アキラ』は水泳を通じて知り合った友人兼ライバルに再会した。

彼女は中学の日本記録保持者であり、オレンジ色の髪に白いヘアーバンドがトレードマークの元気一杯な少女であった。

アキラは彼女に勝つために毎日厳しいトレーニングを積んできたといってもいいくらいなのだ。

勿論普段はメールのやり取りもするし、強化合宿で一緒になったときなどは二人で行動するほど仲は良い。

だが今まではどうしても後一歩が彼女に届かなかった。

今回の大会にかけるアキラの意気込みは並々ならぬものがあった。




「第四コース、涼宮さん。 白陵○学園。 第五コース、大河内さん。 六道女学院。 第六コース……」



無事予選を突破し、いよいよ決勝の舞台。

隣のコースにはいつも通りライバルの姿があった。



会場全体が緊張とともに静寂に包まれる。

スターターの合図とともに決勝に残った選手達が飛び込み台の上へと上がっでいく。

静まり返った会場の中、スタートの合図の電子音と選手達が水に飛び込んだ音が響き渡る。



その中で頭ひとつ抜け出したのはやはりアキラたち二人であった。

アキラが息継ぎをするたび、ライバルと競っていることが確認できる。

観客からの声援は耳に届いていない。

聞こえるのは自身が水を掻く音と水を蹴る音だけ。



「「貰ったッ!!」」



二人ほぼ同時にタッチ板に触れた。

そして二人同時に電光掲示板を振り返る。

やがて今の決勝の確定した順位が電光掲示板に映し出された。




「「「「「「おおおおおおッ!!!!!」」」」」」



そのタイムを見た観客たちからの大きな歓声が会場に響き渡った……

  
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