GS美神

□狐の夢
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『プロローグ』 




カン、カン、カン、カン・・・



小気味のよい足音を響かせ、少女が階段を駆け上がってくる。

金髪を九房に分けた特徴的な髪型の14〜5才位の少女である。



「ただいまー」



そう声をかけ、おんぼろアパートの玄関ドアを元気よく開ける。

といってもこの少女がこの部屋に住んでいるわけではないのだが。



「おなかすいたー、何か食べるものある〜? あ、やった きつねうどん見っけ」



もしかして隠してあったのか、少女は押入れの奥から「赤○きつね」を引っ張り出した。



「あー、それはあかんっ!ワイの非常食やーっ」



バンダナを額に巻き、Gジャンにジーンズ姿の17〜8才位の少年があわてて駆け寄ってくる。



「もうお湯入れちゃったけど?」



よっぽどお腹が空いていたのか、割り箸を銜えながらキョトンとした表情で少女が答えた。



「こらタマモーっ!まだ給料日まで10日もあるのにどないしてくれるんじゃーっ」



どうやら金髪少女の名前はタマモというらしい。



「大丈夫よ、ちゃんと横島の分もあるから」



バンダナの少年の名前は横島というらしいが、彼は今それどころではないようだ。



「ぎゃーっ、2つも開けたんかー」



よっぽどこのカップめんが大事だったようで、彼はガックリとうな垂れ部屋の隅でのの字を書き始めてしまった。

そんな彼にはまったくお構いなしなのか、少女が声をかけてきた。



「もういいみたいよ。 あ、お揚げ貰うね?」

「わかったわかった、ほらよ」



いつの間に復活したのか、やや呆れた声で少年が答えた。

どうやらこれが初めてのやり取りではないらしい。



「ところでタマモ、お前たまにはお揚げ以外の物も食べてるか?」



お揚げ抜きのきつねうどん(素うどんとも言う)を啜りながら横島が尋ねた。



「私はお揚げがあればそれでいいのよ」


自信たっぷりに少女が答える。何の自慢にもならないが…



「そういう訳にもいかんだろうが」



珍しくまともな事を言う横島。

だが、予想外の答えが返ってきた。



「あら、アンタの彼女ルシオラさんだっけ?彼女は砂糖水ばっかりだったって教えてくれたのは誰だったかしら?」



悪戯っ子のような笑顔で問いかけるタマモに対して横島は



「そんなことまで教えたか?」



あれ?という顔で逆にタマモに問いかける。



「ええ」

「そっか…」



しばらく静かな時間が流れる。

でもけして重苦しいわけではなかった。

穏やかな、優しい空気に包まれたようなそんな時間。

タマモの今一番好きな時間。



(横島とこんな話ができるようになったのって何時からかしら…)



タマモがそんなことを考えている頃、横島もちょうど同じことを考えていた。

どうやら二人の相性は良好のようだ。

別にこの二人が付き合っているわけでもなんでもないが。





(タマモとこんな風にアイツの話をするようになったのって何時からだっけ? 切欠は… やっぱあん時か)



どうやら彼には思い当たる節があったようだ……









一年ほど前、後に魔神大戦と呼ばれる大霊障があった。



それから半年、魔神大戦で重要な役割を担った美神除霊事務所は以前と変わりなく賑やかだった。

一人のお馬鹿な少年がセクハラをかまし、亜麻色の髪の女性がシバきたおす。

そして巫女装束の少女がオロオロしながら宥める、という光景が続いていた。

いや、正確には『続いているように見えた』と言った方が良いだろうか…



『いつまでもヨコシマはヨコシマらしくいて』



それは一人の少女の最後の願い。

彼にとっては最愛の彼女の最後の言葉。



彼女の最後の願いを守ろうと彼は必死だった。

そう、必死で以前と変わらない自分を演じていたのだ。

以前のように女性に対して煩悩が湧かないのにセクハラをして。

本当は笑うことさえ出来ないのにワザとおバカをやってへらへらと笑う。

自分の心に鍵をかけ、笑顔という仮面を顔に貼り付ける。



押さえつけられた感情の歪みは、海底に溜まったヘドロのように少しづつ少しづつ彼の精神の奥底に溜まっていった。

周りの誰も、まして本人さえ気づかないまま…







その日、美神除霊事務所は珍しく静かであった。

所長の美神は、母である美神美智恵に呼びだされ今オカルトGメンに出向いている。

おキヌは学校からまだ戻っていない。 

シロタマもどこかへ出かけているのか不在のため、横島は事務所のソファーで雑誌を読みながらのんびりまったり寛いでいた。



時刻は夕方、ふと彼は顔を上げ何気なく窓の外を見る。

彼の目に飛び込んできたのは、それは見事な夕焼けであった。



(あそこから見たら、アイツはきっと大喜びするだろうな…)



事務所の窓から東京タワーは見えないが、彼はふとそんなことを考えた。



その瞬間、胸に熱い何かが込み上げてくる。

そしてさらに彼の目からは、大粒の涙が溢れ出した。



「え、あれっ!?」



突然の出来事に、彼自身戸惑ってしまう。

溢れ出した涙は、いくら袖でゴシゴシと拭っても留まる気配がない。

無自覚のまま追い詰められた(自ら追い込んでしまった)彼の精神は、バランスが崩れる一歩手前まで来てしまっていたのだ。

崩れてしまう直前に、無意識のうちに身体の自己防衛本能が働いたのかもしれなかった……







(それを見られたんだよなぁ。 しっかしその後のアッチのほうが…… イヤイヤ、ワイはロリやないんや〜)



何かを思い出しながら、彼はチラッと目の前の少女を見る。

彼女は目を瞑ったまま考え事でもしているのか、彼の視線に気づいていないようだった。

 
  
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